2011年に産声を上げ、サッカーファン、映画ファンから熱い支持を集めてきた「ヨコハマ・フットボール映画祭」。今年も2月8日(土)〜11日(火/祝)の4日間で世界のサッカー映画の珠玉の作品か9作品を一挙上映! そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、豪華執筆陣による各9作品の映画評を順次ご紹介。今回はご自身が出演する新作映画の公開も控えたジェントルさんより『サッカーに裏切られた天才、エレーノ』の映画評をご寄稿いただきました。
現在31歳。これをみなさんが読んでくださっている頃、32になっているだろうか。僕も30代になった。年上の方々には、まだ30だと言葉をかけていただくことが多いが、自分にとって30代は、あまりに未知の領域で不安がないと言えば嘘になる。なぜこんなに不安なのだろう?
20代を迎えた頃はこれから起こるであろう自分への出来事に、20代という未知に、とてもワクワクしていたのを思い出す。なぜ自分に期待できたのか?
10代の自分に、自分が積み重ねた時間に、『自信』を持っていたから。何が来ても怖くないと思える程、他よりも修羅場をくぐってきた自負。それが揺らがないだけの『研磨の時間』を、自分に課してきた。だから未知の土地、人、環境、何も恐れることはなかった。『結果』という誰もが手にしたい目に見える確かなものが手に入らなくても揺らがなかった。いずれ手にするから。いずれ。少しの時間があれば、皆を振り向かせることができた。大きい小さい失敗や壁が立ちはだかっても、少しの時間さえあれば乗り越えられる気がしていたし、実際乗り越えられた。掴みたいものや出逢いたい人もすぐに手繰り寄せることができた。すべては10代で得た自信と経験、10代の時に費やした時間があったから。20代を充実させるための『貯金』のようなものを僕は身に付けていた。それを自分で知っていた。だから自分が思うように事が運んだし、わざとできないふりをする余裕さえあった。
でも今現在、30代を迎えた僕に、それはない。ない気がしているわけでも、謙虚な気持ちで言っているわけでもない。確実にないのだ。あるのは『恐怖』と、『借金』とでもいうべき20代で過ごした時間が生み出したとても重たい鉛のようなものだけだ。これと共に生きるのは苦しい。果たして20代の自分が本当に同じ人物であったのかと疑いそうになる程に。あの気持ちは、身体は、熱量は、一体どこへ行ってしまったんだろうか。たぶん、たぶんとしか言えないが、自分で食い尽くしてしまったのだろう。他の誰でもない自分が。僕が。目に見える景色にはパステルが失われ、モノクロが増えた。軽やかな音が止み、心地の悪い方の重低音を聴く機会が増えた。すべて自分のせいなのだ。
ただ、少しだけ成長したところもある。それを『自分のせい』と言えることができるようになった。これに気付くのにとても疲弊した。時間が、苦労が、周りからの助けがかかった。ひとりでは出逢えなかった。これを受け入れるのにも時間、苦労、周りの助けが要った。せっかく出逢えても、しっかり飲み込むのはとても苦いものだと知った。昔読んだ少年漫画に、そのようなシーンがあったのを思い出した。「もっと早く強くさせろよ、めんどくさいな」という子供ながらに放った自分の独り言を呪った。と同時に、少年漫画に込められたメッセージに、『中年』で気付いた。やっと。
それからは新しいものに出逢いたい気持ちを抑え、今まで出逢ったもの達に再会することを強く望んだ。『わかっていたはずの』もの、人、言葉に心を寄り添わせた。耳をすませ、よく味わった。時には角度も変えながら。まだすべてに再会できていない。再会を拒むものもいるし、どんなに望んでももう再会できないことがあるということも思い知らされた。悔いた。きれいなものにしか目を向けなかったことを恥じた。影になっているものに、陰になってくれているものに感謝の気持ちを伝えたいと思った。もう叶わないと知っていても、少年時代に漫画を読みながらよく呟いた独り言のように。「ありがとう」と「ごめんね」を。
ブラジル映画を初めて観ました。サッカーが大好きな僕は、“ブラジル”という単語にとても敏感です。あのサッカーの王様・ペレも、映画をこよなく愛しているといいます。ブラジルにこんなに映画の文化があるというのは、恥ずかしながら無知で知らなかったのですが、「初めて観たブラジル映画が、この作品でよかった」と、素直に思えました。ブラジルの代名詞である《サッカー》というフィルターを通して作品を創造でき、これだけ各人の人生観に訴えかけるメッセージに説得力を持たせられたのは、やはりブラジル映画だから。好き嫌いの多い僕は、“初対面”をとても大切にしています。それによって好きにも嫌いにもなることを知っているからです。僕はこの初対面のおかげで、ブラジル映画が好きになってしまいました。そして、自分も映画に携わらせていただいている身として、この作品の主演俳優ロドリゴ・サントロを感じられたことに感謝しています。この作品を観て改めて思い出しました。小さい頃両親に教わった「ありがとう」と「ごめんね」を。もう一度言わせてください。
初めて観たブラジル映画が、この作品でよかった。
『サッカーに裏切られた天才、エレーノ』
(ブラジル/ドラマ/117分/2011年制作)
上映:2月9日(日)10:30~/2月11日(火・祝)17:55~
監督:ジョゼ・エンヒケ・フォンセカ
出演:ホドリゴ・サントロ/アリーニ・モライス/アンジー・セペダ/エロン・コルデイロ/マウリシオ・チズンバ/ドゥダ・ヒベイロ
提供:ブラジル映画祭提供
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【ヨコハマ・フットボール映画祭2014について】
世界の優れたサッカー映画を集めて、2014年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線新高島駅/みなとみらい駅)にて2月8日(土)・9日(日)・10日(月)・11日(火/祝)に開催! 詳細は公式サイト(http://yfff.jp)にて。
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