2012.07.26

【第9回】ウニベルシダ・デ・チリ、受け継がれる7番の伝説

文=池田敏明
写真=市川陽介、ウニベルシダ・デ・チリ

 ブラジル代表やアルゼンチン代表では10番がエースナンバーとされている。チームの中心的存在が背負って栄光の時代を築き、新たなエースがそのナンバーを継承し、プレッシャーをはねのけて更なる伝説を築き上げる。その繰り返しによって、背番号は特別な数字となる。
 
 ウニベルシダ・デ・チリでは、7番がエースナンバーとして確立されつつある。この傾向を築いたのが、昨シーズン限りで現役を引退し、現在はクラブでアドバイザーを務めるディエゴ・リバローラだ。彼はアルゼンチン出身で、現役時代はFWやトップ下としてプレー。アルゼンチン、チリ、メキシコ、ベネズエラのクラブを渡り歩いたキャリアの中、ウニベルシダ・デ・チリでは合計7シーズンにわたって在籍し、国内リーグ227試合87ゴールという記録を樹立した。代表歴こそないが、ファンの間で絶大な人気を誇るローカル・ヒーローであり、今でも背番号7と彼の名前がプリントされたユニフォーム姿のサポーターを見かけるほどだ。

「ウニベルシダ・デ・チリは自分にとってのすべてです。我が家のような場所ですね。私にとってはまさに第二の故郷です」。我々の取材に応じてくれたリバローラは、ウニベルシダ・デ・チリというクラブについてそう表現した。ファンから深く愛され、4度の国内リーグ制覇、そしてコパ・ブリヂストン・スダメリカーナ優勝とタイトルにも恵まれ、キャリアの絶頂期を過ごした。リバローラとウニベルシダ・デ・チリは、まさに相思相愛の関係だ。
 
 そして、引退したリバローラと入れ替わるように今年トップチームに昇格し、18歳ながら瞬く間にレギュラーに定着したのがアンジェロ・エンリケスだ。クラブが背番号7を授けた新鋭は前期リーグで14試合10ゴール、コパ・リベルタドーレスでも10試合4ゴールの好成績を記録。まさにリバローラの“後継者”として、華々しいデビューを飾ったのである。

「リバローラはクラブの英雄」と、偉大なる先人に敬意を示すエンリケスだが、背番号7を継承したことについてプレッシャーは感じず、むしろ「この番号を付けてプレーすることを心から楽しんでいる」という。このメンタルの強さも、エースナンバーを背負う男たるゆえんだ。
 
 リバローラからエンリケスに継承されたものは、背番号7だけではない。ゴールを決めた後、リバローラはユニフォームをまくり上げてアンダーシャツのイラストを見せるパフォーマンスをしていた。描かれているのは、何と7番のユニフォームを着た『ドラゴンボール』の孫悟空。「他の選手とは違うゴールパフォーマンスをしたいと考えていた時に、友人があのシャツをプレゼントしてくれたんです。以来、私はずっと「ゴクウ」のアンダーシャツを着て試合に臨み、たくさんのゴールを決めました。今では街ですれ違う人が、私のことを名前ではなく『ゴクウ』と呼ぶほどです」

 4月29日、コロコロとの“スーペル・クラシコ”でゴールを決めたエンリケスは、リバローラと全く同じパフォーマンスを披露しファンを熱狂させた。これにはリバローラも「あんなものを仕込んでいるとは知らなかったので、正直言って驚きました」と笑顔を浮かべた。原作で孫悟空の息子として孫悟飯が登場したのと同様に、エンリケスは今、ファンの間で「ゴハン」と呼ばれ、新たなアイドルとしての地位を築いている。
 
 ただ、エンリケスのチリでのキャリアはあまり長く続かないかもしれない。すでにマンチェスター・ユナイテッドが保有権を買い取ったとされ、2014年頃にはイングランドへ渡るとも報じられている。一部メディアではサー・アレックス・ファーガソンと並んで撮影した写真も掲載された。近い将来、彼は香川真司のチームメートとしてプレーすることになるのだろうか。そして、その背中には、再び7番――マンチェスター・Uが誇る栄光のエースナンバー――が輝いているかもしれない。

【動画編】ウニベルシダ・デ・チリ、受け継がれる7番の伝説