2015.05.27

「足元を見つめて、23人全員が全力で戦い抜く」/阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)

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インタビュー=馬見新拓郎 Interview by Takuro MAMISHIN
写真=兼子愼一郎 Photo by Shin-ichiro KANEKO

 好守で重要な役割を与えられているなでしこジャパンMF阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)は、変幻自在な選手だ。ボランチはもちろん、より攻撃的なポジションやセンターバックでも出場可能な選手で、その柔軟なプレースタイルは特に若い選手の憧れの的となっている。確かなテクニックに裏付けられた、ブレないパフォーマンスの源流はどこにあるのか。自身の若手時代や前回大会を振り返りながら、連覇が懸かる女子ワールドカップを冷静な目で展望してもらう。

澤さんの復帰は心強い

――いよいよ女子ワールドカップ開幕が迫ってきました。4年前の前回大会で優勝したチームとして、連覇への期待の大きさを感じますか?(取材日:5月14日)
阪口 そうですね、前回大会前は開幕直前になって少しずつこういったインタビュー取材が増えていきましたけど、今回は早い段階から多くの取材を受けることで、世間の皆さんから期待されているんだな、と感じています。

――先日、発表された23選手を見てどのように感じますか? 澤穂希選手(INAC神戸レオネッサ)が1年ぶりの復帰となりました。
阪口 ここ2、3年で多くの選手が代表に入りましたけど、W杯を戦うために、このメンバーが一番いいって監督が決めた23名だと思うので、選ばれた私たちはもう全力で戦うしかないと思っています。やっぱり澤さんがメンバーに入ると雰囲気もガラッと変わるし、代表に復帰してくれて心強いと感じますよ。

若手選手に簡単に負けるとは思っていない

――その一方、若手選手が少ないという意見もあります。
阪口 どうなんでしょうね。私たちは結構若い時期から代表に呼んでもらっていましたけど、今の方がそのハードルが高いのかな、とは思いますね。今は代表候補になることも、女子サッカー全体のレベルが上がった分、簡単なことではないから、正直、若い選手たちはちょっとかわいそうかなという気持ちもあります。今回の23選手は10代の頃から代表に呼ばれていて、さらに大きな経験を2回もしていますから。

――逆の立場で考えると、阪口選手のように、世界一を経験した選手として、その席を簡単に他の選手に譲れないというプライドもありますか?
阪口 はい、それは本当にそう感じます。もしかすると少し偉そうに感じられるかもしれませんけど、若手選手が新しく代表に入ってきても、簡単に負けるとは思っていないです。だからといって、私は若手選手が伸びていないとは、まったく思っていません。

――阪口選手が初めて代表に選出された頃は、どんな思いでプレーしていたのですか?
阪口 FCヴィトーリアという大阪の有名でもないチームに所属していたんですが、ぶっちゃけ、2006年に初めて代表に選ばれて『やってやろう!』っていうよりも、『とんでもないところに来てしまったかも』という気持ちでした(笑)。周りの方々が、TASAKIペルーレFCや日テレ・ベレーザという強豪チームに所属している選手ばかりで、周りには『この選手どこから来たの?』って思われていたと思います。その頃はとにかく、1回1回の練習メニューをこなすのに必死で、とりあえず迷惑をかけないように、無難に、という気持ちも正直ありました。実際に遠慮していましたし、なかなか最初は自分のプレーを出せるまでにはいかなかったんです。

試合に対するモチベーションを一定に保つように心掛けている

――代表に対する責任感や自覚が芽生えたきっかけなどあったのでしょうか?
阪口 私が代表に入る前から、ゴミさん(加藤與恵さん)が主力として代表の試合に出場していたんですが、ノリさん(佐々木則夫監督)が監督に就任してから、ゴミさんではなく私の方が出場する時間が多くなったんです。でも、その時のゴミさんの立ち振る舞いにびっくりさせられました。ポジションを取られて本当はすごく悔しいはずなのに、『もっとこうしたほうがいいよ』とか、アドバイスをしてくれたんです。きっと、私ならできないだろうなと強く感じました。それまで私は、自分の出場時間が長くなった時も、『ゴミさんの方がいい』って心の中でネガティブに考えながら、プレーしていたんです。でもそうやって優しくしてくれた時に、『もっと積極的にやらなアカンな』と思ったのを強く覚えていますね。

――若手選手には、目標の選手として阪口選手を挙げる選手が多いです。阪口選手の波のないプレーの源はどこにあるのでしょうか?
阪口 目標の選手が私なんて、その選手変わってますね(笑)。でも確かに波がないって結構言われます。常に低空飛行だから、そう感じるだけかもしれないですけど(笑)。昔は、めっちゃ波があった選手やったんですよ。試合ごとにモチベーションの高低があって、それがプレーに出ていました。だからこそ今は、試合に対するモチベーションを一定に保つように心掛けている部分はありますね。昔は『この試合は頑張ろう』と思うことがあったけど、今はそういう気持ちがまったくなくて、プレーの質も試合ごとにそんなに変わらなくなったんだと思います。周りの環境とか、大会の大きさは、私はあんまり関係ありません。

 特に日テレ・ベレーザは若い選手が多いので、大きい大会になると緊張して、普段通りのプレーができなかったりするんですけど、そういう時こそ、より一層自分は平常心でやろうと思っています。若い選手が焦って余裕がない状態になりそうになった時に、チームが落ち着くプレーを意識しています。

チームとしてのパフォーマンスを発揮しないといけない大会

――前回大会を振り返ると、優勝する上で重要なポイントはどこにあったと考えていますか?
阪口 私はグループリーグ第3戦のイングランド戦かなと思います。あの試合は引き分けでも自力で決勝トーナメントに進出できたんですが、負けて(0-2)進むことになったんです。そこでもう一回、気を引き締め直したというか、負けて学ぶことが多かった試合でした。その後に選手ミーティングを多くやって『もっとパスでボールを回せば良かったのに、なんで攻め急いでしまったんだろう?』とか、そんな反省の言葉がいくつも出てきました。その中で『こうすれば良かった』という意見も出てきて、チーム全体がポジティブになれたんやと思います。

――イングランドに負けて、同時に決勝トーナメント1回戦で開催国のドイツと対戦することが決まった試合でした。
阪口 次の相手は開催国だし、ホームサポーターの声援もすごいって分かっていました。だから、開き直りみたいなのも、もちろんありましたよ。もうやるしかないって思えたんです。

――前回大会のなでしこジャパンは、過去のチームとは違ったのでしょうか?
阪口 いや、優勝したから『あの時のメンバーは良かった』と言われていますけど、仮に優勝していなかったら、そんな評価じゃないと思いますよね。大会中に勝ち進んでまとまっていったんです。だから私としては、大会前から特別にまとまっていたチームと感じていたわけではないです。大会の途中で『いけるかも』と思い始めたわけで、その大会前の親善試合・韓国戦も、1-1で引き分けて、内容がめちゃくちゃ良かったわけでもなかったですからね。ただ、試合の度に活躍する選手が違ったので、次々にヒロインと言われる選手が出てきたことは、これまでのチームと違いました。

――そんな活躍する選手の出現が、連覇へのカギかもしれません。
阪口 今大会は人工芝が多いんですよね。一般的には人工芝でプレーすると疲労が溜まりやすいと言われていますから、体力の回復や次の試合に向けたリカバリーが大事になってくると思います。23人の誰が出ても勝てる、日本というチームとしてのパフォーマンスを発揮しないといけない大会でしょうね。私は11人だけで7試合をこなせるとは思っていないですから、ベンチワークも大事になってくるのかなと思います。

人工芝の質の違いへの驚きを経験できたことは大きい

――お話しされたように、全会場が天然芝の前回大会と比べると、今大会は6会場のうち5会場が人工芝です。なでしこジャパンは去年10月にカナダ遠征をして、グループリーグの第1、2戦を行うバンクーバーと、決勝トーナメントで訪れる可能性があるエドモントンで親善試合をしました。
阪口 ふたつを比べると、バンクーバーの人工芝の方がやや固いなと感じました。だから、足首やひざに不安を持っている選手には、負担が大きく感じるかもしれません。いずれにしても、ひとつの大会で使う各スタジアムの人工芝の中でも、『質がこんなに違うんや』っていう驚きを事前に経験できたことは大きかったです。人工芝は、天然芝に比べるとボールが予期せぬ動きをすることが少ないですから、なでしこジャパンの選手は人工芝で日頃の練習をしている選手が多いことですし、こちらの味方になってくれることを信じています。

――なでしこジャパンに対する研究やマークは厳しくなっていると感じますか?
阪口 やっぱり感じますね。自分たちの守備の仕方を研究されていて、ここ4年はなかなか簡単にボールを奪えなくなったと感じています。『ここで体を寄せて足を出せばボールを奪える』っていうところでも、いなされたりすることが増えました。攻撃面でも、なでしこジャパンはパスをつなぐサッカーというのが世界中に浸透して、なかなかボールを回せないと感じますよ。

もう一度足元を見つめて大会に臨みたい

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――それほどマークが厳しくなった中、今大会を勝ち抜くことはできるのでしょうか?
阪口 今年のアルガルベカップでは思うように勝てなかったことが、自分としてもチームとしても、気持ち的にずっしり重たく感じています。女子W杯までにはいいイメージで入りたいんですが、『アルガルベカップでの苦い思い出があったから勝てたんや』と思えるように、全力を尽くすだけですね。なでしこジャパンが大きな大会に入る前は、いい形で臨めていたわけではありませんでしたから。最初に話したように、前回大会だって優勝できるぞっていう自信が大会前からあったわけじゃなかったですし、ロンドン・オリンピックだって実際はそうでした。不安要素を抱えながら慎重に大会の初戦を迎えるのが、なでしこジャパンにとってはいいのかもしれないですよ。後々になって振り返った時に『あの時負けていて良かったんかもな』って思えるような大会にしたいなと思います。

――そのくらい肩に力が入っていない『阪口スタイル』で、最後に今大会の意気込みをお願いします。
阪口 簡単に『優勝します』とは、100%の自信を持って言うことはできないです。それは前回優勝を経験して、その大変さを分かっているからかもしれないですけど。2連覇なんて簡単に達成できるわけがないんですから。何よりも自分が試合に出られるかも分からないから、まずはチーム内での競争に勝っていかないといけないと思っています。こういうことを言うと、小さいと思われるかもしれないですけど、もう一度足元を見つめて大会に臨みたいというのが意気込みですね。ただ、全23選手がどんな状況や立場に置かれたとしても、それぞれが全力で戦い抜くことでしょうね。その先に大きな結果が待っていればいいなと思います。