2013.02.05

『ローカル・サッカー・クラブのヒーロー』「ネーションの住人はこれを見よ」――広瀬一郎

2011年に産声を上げ、サッカーファン、映画ファンから熱い支持を集めてきた「ヨコハマ・フットボール映画祭」。今年も2月11日(月/祝)、16日(土)、17日(日)の3日間で本邦初公開のジャパンプレミアを含む7作品を一挙上映! そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、豪華執筆陣による各7作品の映画評を順次ご紹介。今回は16日に映画祭特別ゲストとしてご登壇も予定されている広瀬一郎さんに日本初公開となるイタリア映画『ローカル・サッカー・クラブのヒーロー』 についての映画評を寄稿いただきました。
ローカル・サッカー・クラブのヒーロー

「ネーションの住人はこれを見よ」――広瀬一郎

世界には2種類の人間がいる。

「サッカーに取り込まれた人間」と、そうでない人間だ。

 前者は「サッカー・ネーション」の国民として行動する。普段は肉屋であったり、服屋であったり、するがそれは世間を欺く仮の姿である。例えば、英国のベストセラー作家でケンブリッジの文学部卒のニック・ホーンビーとは仮の姿で、本当はあの労働者に人気のガンズに取り込まれた正真正銘の筋金入りのガナーズであることをデビュー作でカミングアウトした。(「僕のプレミア・ライフ」参照)

 彼らにとって週末の「我がチームのゲーム」こそが本当の人生であり、仮の姿の職業は、それを楽しむために必要な諸条件をクリアするためのものでしかない。現世の職業がたまたま神父であったら、ゲームに後れないようにミサを早めに切り上げることも厭わない。聖書を数頁飛ばして読む、などという芸当は朝飯前である(彼の中では、主イエスもサッカーファンだったはずだから、小さなことはお許しになるはずなのであろう)。

 第一に食わなければならない。そのためには金がいる。だから稼ぐ必要がある。

 第二に食わさなければならない。「妻や子供」の存在だ。これもクリアする必要がある。サッカーに専念できればいいのだろうが、そんなことは夢だと認識している。

「サッカー・ネーション」の住人は、バカではない。
「サッカーバカ」と「バカ」は明らかに違うのだ。

 ところが、後者の「ネーション外の住人」からすると、「バカはバカ」なのであり、その違いはわからないのである(その違いがわからない者をバカと言うのだ!)。

「ローカル・サッカー・クラブのヒーロー」という映画は、ボルゴロッソというセリエCのチームのオーナーが死んだところから物語が始まる。このじっちゃんが、サッカーバカの典型である(無論右翼だ)。46年間、縁を切っていた妻と息子がローマからボルゴロッソにやってくる。

 息子は何とサッカーを見たことがない(そういうイタリア人もいるんだ!言うまでもないが、「マザコン野郎」である)。オヤジの跡を継ぐことになったが、何しろ「ネーション外の住人」だから、そもそも言語が違う。全くかみ合わないのだ。

 ここで、この映画を観る貴方が「ネーションの住人」か、そうでないかで観方が分かれる。まあ、常識からいって、外の住人がこの映画を観ることは余り考えられないが、仮に、あなたが恋人や妻を伴って観賞したとしようか。彼女達がネーション以外の住人であったら、どんな反応を示すのか?興味深いテーマではある。が、この点について深い立ち入りは止めておこう。

 この「サッカーバカ」ではないバカ息子が、行きがかり上「サッカーバカ」に転身する場面がある。感動的でも何でもない、あくまで「行きがかり上」なのだが、笑える。オヤジはこともあろうに息子に偉大なムッソリーニ元帥と同じ名前を付けていたのだ(あとは映画を見てね。どこか吉本新喜劇を連想させる、大爆笑保証!)。

 行きがかり上、選手補強のため、ミラノのガリホテルに行く。かつてはここがストーブ・リーグの場所であったようだ。クラブ関係者、選手の代理人やメディアだけでなく、ファンなど、字義通り、「サッカー関係者の大集合」である。

 現在はミラノの中心街から車でおよそ30分の「ミラノ・ウノ」という産業都市でストーブ・リーグが開催される。この街の開発はフィニインベスト社。ベルルスコーニ氏がオーナーである。私はゼロックス杯にマラドーナ擁するナポリを招聘するために、ストーブ・リーグ真っ最中にこの街に呼びつけられた。

 約束の時間は12時だったが、呼びつけたナポリのGMが現れたのは18時。無論、アタマにきた!……が、リムジンから降りてきたGMの物腰、顔、そして取り巻きを見て、怒るのを止めた。明らかにマフィアであった(そのGMはのちにユーベのGMになったあのルチアーノ・モッジである。恐喝と買収でユーベを降格させた大悪人だ。私の直感は正しかったのだ!)。

 舞台はイタリアである。サッカーに食いものにワインが無くては夜も日も暮れない国だ。私は90年のW杯イタリア大会での仕事の時、通訳として使っていたイタリアの大学生がいた。見るからに貴族階級の出。お坊ちゃまくんであった。

 それが、マラドーナが画面に出てくると、表情が一変。

「○△×・・・・」と放送禁止用語を並べて画面に怒鳴り始める(お前の母親は娼婦だ……とかね)。

 それが準決勝で、アルゼンチンが開催国のイタリアを破った(マラドーナが右足でスルーパスを出したのは後にも先にもこれ以外お目にかかったことがない。会場がナポリでなければマラドーナは殺されていただろう)。そして、あの史上最低の決勝である。あれはマラドーナに対する公開処刑であった。観客だけではない、審判もFIFAも一緒になって処刑を執行したのだ(アルゼンチンのモンソンはW杯決勝でレッドカード退場した最初の選手になった)。マラドーナはゲーム後に、メダルの授与を拒否したが、当然である。

 話が脱線したが、結論は「ネーションの住人はこれを見よ」である。そして言おう。「サッカーバカですが、何か!(So What?)」と。

【プロフィール】
広瀬一郎(ひろせ・いちろう)
1980年電通入社。W杯メキシコ大会とイタリア大会にスタッフとして参加。トヨタカップなど国際サッカーイベント、全英オープンゴルフTV放送権、大相撲ハワイ場所やNYの「アメリカズ駅伝」実施などの業務に携わる。1994年に、2002年ワールドカップ招致委員会に出向。2000年に電通を退社し、スポーツナビ創立。2002年に同社を退社し、経済産業研究所の研究員を経て、スポーツ総研を設立する一方、現在は多摩大学でスポーツビジネスを教えている。

『ローカル・サッカー・クラブのヒーロー』
イタリア/コメディ/108分/1970年
上映:2月11日(月/祝)17:35?、16日(土)19:05?
監督:ルイジ・フィリッポ・ダミーコ 音楽:ピエロ・ピッチオーニ
出演:アルベルト・ソルディー
配給:Avanz Entertainment Inc.
舞台:1970年代イタリア
(c)Produzioni Atlas Consorziate s.r.l., Roma Italy

【ヨコハマ・フットボール映画祭2013について】
世界の優れたサッカー映画を集めて、2013年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線新高島駅/みなとみらい駅)にて2月11日(月/祝)・16日(土)・17日(日)に開催! 詳細は公式サイト(http://yfff.jp)にて。

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