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【サッカーに生きる人たち】「大きな夢の実現」へ 谷塚 哲(REGISTA.LLP代表)

2016.04.27

「スポーツを愛する多くのファンの皆様に支えられまして、Jリーグは今日ここに大きな夢の実現に向かって、その第一歩を踏み出します」

 満員の観衆で埋め尽くされた国立競技場、そのスタジアム内に鳴り響くチアホーンの音色と大きな歓声の中、当時チェアマンだった川淵三郎氏の開会宣言でJリーグが幕を開けてから、今年で早くも23年目のシーズンを迎えている。「大きな夢の実現」の内容は、後に掲げられたJリーグ百年構想によって明確にされている。しかし――。

「当時やろうとしていたことが、ほとんどできていないのが現状だと思うんですよね」

 そう語るのは、REGISTA.LLP代表の谷塚哲氏だ。

GKとして活躍したサッカー人生

 谷塚氏がサッカーと出会ったのは、小学生時代だった。

「僕らよりも上の世代はみんな野球をやっていたんですが、僕が小学校高学年の頃にちょうど『キャプテン翼』が流行り始めたんです。だから小学生の間は野球をやりながらサッカーもやっていて、中学生から本格的にサッカーを、という流れでしたね」

 その後、谷塚氏はGKとして活躍し、中学では埼玉県大会優勝を経験。県選抜に選ばれてキャプテンを努め、県内で強豪だった武南高校へと進学する。そこでも活躍し、3年生の時には国体優勝の栄誉を味わった。そして順天堂大学へと進学し、卒業後は一般企業に勤務しながら、関東リーグのチームに籍を置き、30歳までゴールを守り続けた。

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引退、そして真逆の世界へ

 しかし、いつまでも現役でプレーできる選手はいない。もちろん、谷塚氏にもその時は訪れた。そして、それは同時に新たなスタートでもあった。

「30歳になると、体のあちこちが痛くなってきたんです。元々やっていた仕事も、サッカーをしながら働けることを前提に選んだので、それを定年までの30年間、続けることはできないと思い、じゃあサッカーと同じくらい情熱を注げる仕事がないかなと、いろいろ考えたんです。どうせならサッカーとは真逆の世界に行きたいな、と考えた時に、例えば法律や経営は真逆だな、と思って。そこでたまたま行政書士の資格を見つけて、チャレンジしてみようと思ったんです」

 その後、わずか1年半で資格を取得すると、本人が最も「辛かった」と語る肉体労働の仕事をしながら資金を蓄えるという苦悩を経て、33歳の時に行政書士として独立し、新たな一歩を踏み出したのである。

スポーツ団体のコンサルタントを手がけたい

 谷塚氏には、独立当初からあるビジョンがあった。

「僕は最初から、極端なこと言うとスポーツ業界のクライアントしか対応する気がなくて。つまり、スポーツ団体のコンサルタントをしたいと思ったんです。それをするために、たまたま行政書士の資格を持っていた、くらいの感覚でスタートしました」

 しかし、このビジョンには少なからず障壁が存在した。そして、それが現在のREGISTA.LLPの設立へと繋がるのである。

「行政書士の資格だけではできないことがたくさん出てくるんですよ。例えば訴訟の問題が起こりそうだとか、税務、会計の問題が起こるだとか。そこで、それまでに知り合った弁護士や会計士の方に協力を呼びかけて、いわゆる総合窓口的なものを作ろうと思ったんです。専門的に、スポーツのことならうちに任せてくださいっていう見せ方もしたかったので、このLLP(編集部注:Limited Liability Partnershipの略。事業を目的とする組合契約を基礎に形成された企業組織体である有限責任事業組合のこと)という仕組みを作った。それが現在のREGISTA.LLPですね」

 では、REGISTA.LLPは具体的にどのようなことを手がけているのか。

「メインはスポーツクラブの立ち上げですね。例えばサッカークラブの場合、どのように立ち上げるのか、から始めて、きちんと法人格を取ります。次は法人格って何があるんですか? となるんですが、サッカーに関わる組織でも財団法人や株式会社、NPO法人とそれぞれで異なっていて、当然どれでもいいわけではない。そういうところからスタートします。その次は人を雇わなきゃいけないんですが、そこでは雇用契約って何ですか? となる。そんな感じで、根本に立ち上げがあって、そこからいろいろな事象が仕事として繋がっていく感じですね」

 谷塚氏はこのREGISTA.LLPで、実際に東京ヴェルディの経営問題が起きた際に東京Vの役員会に出席し、自治体との関係強化に関する提案をするなどした。また、北海道のバスケットボールチームの経営再建にも携わったことがある。

「ヴェルディのケースでもそうですけど、僕が『こうしたほうがいい』と思うことを、何もないところに提案するじゃないですか。それが採用されて、スタンダードになっていくと、やっぱりやりがいを感じますよね」

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道半ばのJリーグ百年構想

「スポーツビジネスって単純なビジネスと違い、『地域社会のために』というのを念頭に置かないとなかなかうまくいかないし、それが特徴でもあります。しかし、実際にJリーグに目を向けると、百年構想の下に地域密着を実現できているクラブが今どれだけあるかと言われると、ほとんどないのが現状だと思います。結局、親会社がいなくなると潰れてしまうクラブばかりです。商業主義的な流れでやっている感は否めない。そういうところを含めて、本当に百年構想の実現に向かっていけているんですかって、強く思いますね」

 では、谷塚氏から見て、実際に100年以上の歴史を持つ海外のクラブとJクラブの違いはどこにあるのだろうか。

「海外のクラブの場合、地域のスポーツクラブが中心にあって、その中にトップチームがある。でも、日本の場合はトップチームがあって、その下は後付けです。似たような感じにはなっていますけど、土台があって上があるのと、先に上があって下に作っていくのでは意味が違う。根本的なあり方が違うんです。スポンサー企業がいなくなったら潰れてしまう、つまり企業の都合で成り立つのではなく、チームは地域のものなのだから、その地域で支えようという仕組み、究極のところで言うソシオ制度のような、地域のみんなが資金を出し合って支えている仕組みが海外にはあるんです。そこが大きな違いですね」

「大きな夢の実現」に向かって

 谷塚氏は過ぎた20年ではなく、今後の80年に目を向けている。

「このままだとずっと、これまでと同じようなスポンサーありきのクラブが出てくる可能性がある。だから、地域に根ざしたクラブの仕組みを理解してもらえるような働きかけをしていきたいなと思います」

 REGISTA.LLPのホームページを開くと、まず目に飛び込むのが「The Revolution For Sports ―いつも時代を変えるのは、ひとつの小さな志―」という言葉。谷塚氏の抱く思いは、川淵元チェアマンが開会宣言で発した「大きな夢の実現」に向けた「一つの小さな志」なのではないだろうか。

REGISTA.LLP

インタビュー・文=荒井駿輝(サッカーキング・アカデミー/現フロムワン・スポーツ・アカデミー
写真=小林浩一

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By サッカーキング編集部

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