[ワールドサッカーキング0418号掲載]
文=ヘラルド・ロハス Text by Geraldo ROJAS
翻訳=池田敏明 Translation by Toshiaki IKEDA
写真=ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images
レアル・マドリーとバルセロナが“我が世の春”を謳歌する裏側で、リーガの中堅クラブの経営状態は悪化の一途をたどっている。背に腹は代えられない各クラブは今夏、主軸を放出する決断に迫られている。
健全経営のセビージャが深刻な財政難に陥る
レアル・マドリーとバルセロナの“2強時代”が続くリーガ・エスパニョーラだが、その他のクラブはピッチ上での競争力はもちろん、クラブ経営の面でも2強に大きく水をあけられ、それどころか重大な財政難に直面している。
カンテラで人材を育て、あるいは世界中に張り巡らせたスカウト網を駆使して将来性豊かな選手を手頃な値段で獲得し、彼らを登用しながらチームとしても結果を出し、主力に成長したところでビッグクラブに売りさばいて利益を得る――。“リーガで最も健全な経営をするクラブ”だったセビージャが今、経営難にあえいでいる。2005-06シーズンからUEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)で連覇を飾るなど、数年前までは打倒2強の最有力候補だったはずだが、今では見る影もない。
彼らが没落した最大の理由は、ずばり“人材難”だ。カンテラ出身のホセ・アントニオ・レジェスやセルヒオ・ラモスが莫大な利益を生み、数億円で獲得したジュリオ・バチスタやダニエウ・アウヴェスを10倍以上の値段で売却するなど、以前は補強、育成の側面で見事な立ち回りを見せていたセビージャ。しかしその後、カンテラからはなかなか有望株が現れず、補強も失敗続き。移籍市場で利益を得ることができなくなり、チーム力も低下して上位争いから遠のくようになってしまった。
加えて、R・マドリーとバルサが利益の大半を独占しているリーガの放映権料問題もクラブの財政に打撃を与えた。両チームとの試合で多数の視聴者を獲得しても、セビージャの懐に入るのはわずかな金額。クラブ運営がままならず、効果的な補強ができないためチームの順位も低下し、多額の収入が見込めるチャンピオンズリーグからも遠ざかる。こうした悪循環が経営を圧迫していった。現在、その状況は深刻そのもので、1月にR・マドリーがディエゴ・ロペスを買い取っていなければ破産の可能性すらあったという。
当面の危機は脱したものの、すべてが解決したわけではない。「僕はセビージャで幸せだけど、主力を売却しなければならないクラブの状況も理解している。(ホセ・マリア)デル・ニード会長がどのような決断を下すのか、それを待つしかない」。イヴァン・ラキティッチはそう語り、自身の将来をクラブ側の判断に委ねる姿勢を見せているが、選手側がそう達観してしまうほど、深刻な状態は続いているのだ。
そのラキティッチにはラツィオなどが興味を示している。そして彼に限らず、今夏に向けては、これまで“移籍対象外”だった主力の放出も現実味を帯びてきている。中でも大きな注目を集めているのが、ともにスペイン代表に名を連ねるヘスス・ナバスとアルバロ・ネグレドだ。彼らにはアーセナルとマンチェスター・シティーが“2枚抜き”を狙っている他、プレミアリーグのクラブがこぞって関心を示している。両者ともほぼ全試合に出場している主力中の主力で、それぞれ数十億円規模の移籍金が見込めるため、背に腹は代えられないだろう。
もう一人の注目株は、20歳の新鋭ジェフリー・コンドグビアだ。セビージャは既に売却の方針を固めており、違約金を1600万ユーロ(約19億2000万円)に設定。今後はマンチェスター・Cやドルムントとの交渉に入ることになりそうだ。
これまではクラブとチームをレベルアップさせるための選手売却を行ってきたセビージャだが、今回は趣が異なる。チームへのメリットが皆無で、崩壊への序曲になる可能性が高いのだ。
エース級の主力が市場に売りに出される
経営難に陥っているのはセビージャだけではない。バレンシアは3億5000万ユーロ(約420億円)もの負債を抱え、昨年11月にはコスタリカ人投資家によるクラブ買収計画が明らかにされた。負債解消のため毎年のように主力を放出しており、次のマーケットではロベルト・ソルダードの去就に注目が集まっている。クラブ側は売却を否定するが、ダビド・ビージャもダビド・シルバもフアン・マタも、「売らない」と言いながらあっさり放出した“実績”もある。イングランド方面から関心を示されているソルダードも、金額次第では放出することになるだろう。また、成長著しいソフィアーヌ・フェグリにはリヴァプールやマンチェスター・ユナイテッド、パリ・サンジェルマンが、ブラジル代表のジョナスにはトッテナムが関心を示すなど、彼らの去就にも注目が集まる。
快進撃を見せるアトレティコ・マドリーも負債と無縁ではない。「彼を保有し続けるのは難しいだろう」とディエゴ・シメオネ監督が認めるとおり、大エースのラダメル・ファルカオの放出は既定路線。更にアルダ・トゥラン、アドリアン・ロペス、ジエゴ・コスタにも売却の話が浮上している。
ベティスやレバンテ、マジョルカ、レアル・ソシエダ、ラージョ・バジェカーノは過去に破産法の適用を申請した経験があり、今年1月にはデポルティーボが破産手続きの開始を発表するなど、大半のクラブが経営難にあえいでいる。スペイン国内の不況が深刻化する中、これまで“自転車操業”で何とかやり繰りしていた中小クラブだが、状況はリアルなまでに切迫。どのクラブも、主力の放出なしには運営できないのが実情となっており、今夏の移籍市場でスペインから大量にタレントが流出する可能性は極めて高い。