『10番は「司令塔」ではない』の著者が分析…「本田も、香川も」でなければ戦えない

ザックジャパンにおける最重要テーマといえる本田と香川の2大エースの起用法。コンフェデレーションズカップでの2人のプレーについて、『10番は「司令塔」ではない』の著者・北健一郎が各試合ごとに詳細に分析していく。

「本田も香川も」でなければ戦えない

 3戦全敗。コンフェデレーションズカップはザックジャパンに厳しい現実を突きつけることになった。日本の2大エースにとっても悔し過ぎる結果だったことは間違いない。ただし収穫もあった。本田圭佑と香川真司の共存が高いレベルで行えたことだ。

 トップ下は本田か、香川か――。これはザックジャパンが発足して以降、常につきまとってきたテーマだった。しかし、今大会でハッキリしたことは、「本田か香川か」ではなく「本田も香川も」でなければ強豪国を相手にしたときに戦えないということだ。

 イタリア戦とメキシコ戦を比較するとわかりやすい。イタリア戦は本田と香川が良い距離間でパスを交換しながらイタリアのディフェンスの「間」に侵入していった。本田も香川も自分でゴールに向かっていくことができるので守備側としてもフリーにさせるわけにはいかない。

 イタリア戦では香川がボールを持ったとき、本田が前線に走り込むことでDFラインを下げさせて、香川が仕掛けやすい状況を作っていた。香川が本田とのワンツーからペナルティーエリア内に入って行けたのは、本田の献身的なフリーランニングがあったからこそ、だった。

 しかし、メキシコ戦では本田が疲労から本来の姿とは程遠い出来だった。運動量が低下し、フィジカルコンタクトでも競り勝てない。メキシコ戦の本田は“本田”ではなかった。本田は調子が悪いときは、中央の位置ではなくプレッシャーの少ない右サイドでボールを受ける傾向がある。サイドプレーヤー・本田ではトップ下ほどの怖さを相手には与えられない。

 本田が中央から“消えた”ことで何が起こったか。ボールを受けられないことにストレスをためた香川が中盤の低い位置まで下がってボールを受けるようになったのだ。

 このコラムでも2回連続で書いているように香川の良さというのは高い位置でボールを受けてこそ活きる。香川がプレーするマンチェスター・ユナイテッドであれば、前線にはルーニーやファン・ペルシーといったストライカーがいるので中盤の潤滑油的な仕事をするのは悪いことではない。

 しかし、ルーニーやファン・ペルシーのいない日本代表では香川こそが、フィニッシャーの役割を担わなければいけない。密集地帯でボールを受けてファーストタッチでDFの背後をとって、GKの動きを冷静に見極めてシュートを放つ。プレミア1年目でMFとして最多ゴールを挙げたように香川の得点能力は高い。香川の得点力を引き出すためには、本田がトップ下の位置でボールをキープして時間を作ることが条件になる。

 また、本田を活かすためにも香川の存在は重要になる。いくら本田に日本人離れしたキープ力があったとしても、味方のサポートがなければ狙われやすくなるし複数でつぶされてしまう。本田が持ったときに香川が近い距離でサポートに入ってパス交換をすることで、相手から集中マークを受けづらくなる。そうなれば本田がゴールに向かっていく回数も増えていくだろう。

 本田と香川のコンビネーションは確実に良くなっている。あうんの呼吸ができつつあるといっても過言ではないだろう。とはいえ、それが効率的にゴールに結びついていないのもまた事実。現時点では「うまい」とは思わせても相手に「怖い」と思わせるまでには至っていない。

 本田と香川はコンフェデ終了後、共に「個のレベルアップ」をテーマに掲げた。とはいえ、これからの1年で本田と香川がメッシやクリスチアーノ・ロナウドになることは難しい。しかし、2人のコンビネーションを高めることでメッシやロナウドのような破壊力を生み出すことはできる。2014年のワールドカップ、日本が誇る2人の「10番」が躍動すれば、ザックジャパンは世界中のサッカーファンを魅了するに違いない。

文●北 健一郎 写真●Getty Images

10番は「司令塔」ではない-トップ下の役割に見る現代のサッカー戦術-

サッカーの戦術が変化する中で「トップ下」と呼ばれるポジションの役割も変わってきた。かつての考え方では「トップ下」とは呼べない「トップ下」の選手たちも生まれている。サッカーを観る上で重要な視点を紐解く。

◆目次
第1章 トップ下を見るための10の視点
第2章 FC東京・高橋秀人が語る「戦術的トップ下論」
第3章 浦和レッズ・柏木陽介が語る「「技術的トップ下論」
第4章 現代サッカーを面白くする10人のトップ下
第5章 本田と香川の使い方を探る

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