開幕まで1カ月、絶賛工事中のマラカナン・スタジアム
文・写真●竹田聡一郎
経由地のアトランタまで13時間、トランジットに7時間を要し、そこからまた9時間かけてリオ・デ・ジャネイロに到着した。季節は一応、秋から冬に向かっているらしいが、連日30度超えのビーサン短パンのご機嫌な気候である。
ただ、W杯にばかり巨額の投資をする政府やFIFAに反感を持つ国民が各地でデモを引き起こしている背景もあって、街は南ア大会の時のように「お祭りが始まるぞ」といったW杯モードにギアは入っていない。
コパカバーナのビーチに控え目なモニュメントがあり、テレビCMにネイマールが頻繁に登場し、雑貨店には国旗をはじめカナリアカラーのシャツなどの応援グッズが売られているだけで、空港にも市街地にも大規模な煽りの装飾やオブジェは見当たらない。
また、純粋に社会福祉などを求めるデモ隊もあれば、バス会社などはワールドカップに便乗して労働条件の改善などを求めるストを起こしているようで、先週はなんと警官がストを敢行した。街は無法地帯になったらしいいのだが、以下のなんだか妙な説得力を持つセリフを吐いたホテルマンのカルロスをはじめ、多くのブラジリアンはけっこう楽観的である。
「まあ、ワールドカップは大丈夫だ。デモに参加してるヤツだって観たいんだから」
治安については、南アに続いて「悪い怖い」と騒がれていて、外務省の海外安全ホームページにもかなりのエリアが「十分注意してください」の指定地域だったりするのだが、これまた南ア同様、逆に言えば十分注意すれば問題ないように思える。
確かに辻々にはしつこい物売りも、物欲しそうにこちらを見上げている物乞いも、物々しく警備する警官もいる。
だから、写真を撮ったらカメラはすぐ鞄にしまい、鞄はしっかりたすきがけにして、数ブロックに一度は変なヤツがついてきてないか確認する。できれば手ぶらで歩き、財布は露店などでは出さずに小額紙幣を常にポケットに入れておく。人通りの多い道を歩く。
ザックジャパンと一緒で上記のようないくつかの約束事を遵守して実践した上での「問題ない」と解釈してほしい。それさえ気をつければ、ブラジル人はみんな陽気でいいヤツで、ビールはどの店もしっかり冷えていて安い。美人も多い。ブラジルは最高の国である。
ただ、開幕戦の舞台であるサンパウロ「アレーナ・デ・サンパウロ」は先週、テストマッチを開催したが、そこでスタンド、屋根、セキュリティ、というかほとんどの要素に不備があることが判明し、開幕戦が不安視されている。
写真は決勝の会場、マラカナンだが、ここでも駅構内をはじめ人々の動線確保のための工事などが続けられていた。
「まだ工事やってんの?」
「うん。マネージャーはこれで終わりって3週間言い続けてるけどね」
「ワールドカップできるかな?」
「そりゃ、やるだろ。やんないでどうすんだ」
デモやスト、工期の遅れを含め、2週間後に祭典の開幕を控えているとは思えない現地だが、そんなん関係なく無理矢理、開催する。それがブラジル国民の隠れた総意なのかもしれない。イギリスの雑誌は「(W杯の)負の遺産はロッカールームに置き去りにされるだろう」と書き立てたらしいが、さてさて、どうなることやら、もう少し王国のアイドリングは続きそうな雰囲気だ。
1979年神奈川県生まれ。同い年の小野伸二にヒールで股抜きされたことを妙な自慢としながら、フリーランスのスポーツライターとして活動。戦術やシステムを度外視した「アンチフットボールジャーナリズム宣言」をして以来、執筆依頼が激減したのが近年の悩み。著書に蹴球麦酒偏愛清貧紀行『BBB』(ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅/講談社文庫)と、スルガ銀行のサッカーweb「I Dream」で連載中のコラムを書籍化した『日々是蹴球』(講談社)がある。
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