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【プロ選手たちの中学時代 第2回】川澄奈穂美 誰よりも笑顔で、誰よりもサッカーを楽しむ

2014.07.07

プロ選手たちの中学時代 第2回川澄奈穂美文 = 上野直彦 Text by Naohiko UENO 写真 = Getty Images Photo by Getty Images

進境著しい日本女子サッカー界。一際輝く笑顔とプレーで
観る者を魅了する川澄奈穂美は、どんな中学生時代を
送ってきたのか。その“姿勢”が生まれた日々に迫った。

「私、どんな時でも楽しんじゃうんですよ」

 5月中旬、ベトナムで開催された第18回AFC女子アジア・カップで初優勝を飾ったなでしこジャパン。中でも印象的だったのは、準決勝の中国戦だ。延長戦となり、120分間の死闘となったこの試合は、気温30℃・湿度60%以上という過酷なピッチコンディションで、勝利はしたものの、全員が疲労のピークを迎えていた。その試合で、最後まで走り抜き、相手からボールを奪い、一人でカウンター攻撃をしかけた選手がいる。川澄奈穂美だ。 

 試合後のインタビューでも、疲れた様子を一切見せず、いつもの笑顔で「楽しかった!」と答えた彼女に、多くのサポーターが驚きと感動を覚えた。男子代表でもここまで戦える選手は、そうはいないはずである。

「私、どんな時でも楽しんじゃうんですよ」

 このフレーズを口癖にする川澄。そう言ってのける彼女の力強さはどこから生まれるのだろうか? その秘密は中学生の頃にさかのぼる。彼女は一体どんな中学生時代を過ごし、どんな練習を重ねてきたのだろうか。

サッカーを通して出会った親友と、ずっと練習を頑張って日本代表へ

 神奈川県・大和市──東京と横浜のちょうど中間地点、人口約23万人の典型的なベッドタウン。この町で川澄は育った。父は高校時代にバレーボール、大学時代にはスキーを専攻、母はママさんになってもバレー選手として活躍するスポーツ一家だった。3つ年上の姉がサッカーをやっていたこともあり、幼稚園の頃には、家の中でずっとボールを蹴って遊んでいたという。

 地元の少女サッカーチームに入ったのが小学校2年生の時だ。そこで、彼女にとって大きな出会いが待っていた。

「小2の冬でしたね。チーム全員で走っている時に、一番後ろに見たこともない小さな子が走ってたんです。最初、男の子か女の子かも分からなくて……。そのあと、同じ年で、しかも女子だって分かりました(笑)。それがメグ(上尾野辺めぐみ)だったんです」

 メグこと上尾野辺めぐみは、現在アルビレックス新潟レディースで10番をつけ、昨シーズンからはキャプテンマークを巻いているチームの中心選手だ。川澄とは小学校から高校までずっと同じチームでプレー。今では日本代表でもチームメイトで、2011年のドイツW杯では同じ試合にも出場している。出会った頃はどちらのほうが上手かったのだろうか。

「正直、メグのほうが全然上手かったですよ(笑)。それもあってか、いつしか二人一組でやる練習は一緒にやっていました。ライバル心なんてなかったし、何かを学ぼうという気持ちでもなかった。ただ、純粋にメグが上手だから、一緒にやるのが楽しかったんです。メグがいたからこそ、ずっと頑張ってこれた部分があります」
 
 中学校でも二人は同じクラブチームに所属、変わらず二人で練習を続けた。そして、今や二人は一生涯の親友となっている。サッカーを通して出会い、ずっと一緒に練習して、代表でも一緒に練習をしている。大会にも一緒に挑んで戦ってきたからこそ「絆」が深まり、お互いが特別な存在となっていった。

「子供の時もメグがいたからサッカーが上手くなれたんです。なんて言うか……、うまく言えないですがメグは『親友』、いえ、それ以上の存在です。自分が大好きなサッカーをやっていたからこそ、出会えたのだと思います」

 サッカーをやっていたからこそ出会えた親友。これからも二人はお互いを励まし合って成長・進化していくだろう。ただ、川澄にとって中学時代にサッカーを続けていくことには、大きな問題が待っていた。

川澄と上尾野辺
親友以上の存在という上尾野辺めぐみ(左)とは代表でも共にプレー

何でもやってやろう! みんなで作った新チーム

 川澄が中学1年生になろうとしていた1998年、女子の新チーム『大和シルフィード』は誕生した。当時は中学校に女子サッカー部がなかった。そこで林間SCレモンズ代表の加藤貞行氏が、川澄たちを育てるため、わざわざ新しいチームを作ったのだ。

 加藤氏は当時を振り返って懐かしそうに語ってくれた。
「新しいチームは、選手の親に協力してもらうなど完全な手作りでした。さらにナホ(川澄)たちは1期生で、先輩がいなかったんです。だから、すべて自分たちで決めなければいけませんでした」

 練習も新中学1年生だけ。監督の指導の下、練習メニューも少年チームを参考にして行われたが、選手たちだけで考える日もあったそうだ。さらに大変なのは試合だった。オープンな大会では、中1だけのメンバーにも関わらず、対戦相手が高校生や社会人の時もあった。いくらテクニックを磨いても、勝てない日々が続いた。小6の時に、全国大会で優勝した経験がある川澄だったが、この頃はタイトルから遠ざかっていた。

 加藤氏は言う。
「でも、ナホは一切苦しいとか辛いといった感情を言葉どころか、表情にさえも見せませんでした。あの子はサッカーが好きで好きでしょうがないんですよ。一度、風邪を引いて高熱を出した時がありました。それでも練習に参加して、グラウンドの脇で嘔吐して練習を続けようとしました。さすがに、その日は『帰れ!』と怒鳴って帰しましたけどね(笑)」

 実に川澄は、中高6年間で練習に一日も休まず参加。卒団式には皆勤賞をもらっている。教えてくれる先輩もいない、でもそれを逆手に取って、すべて自分たちで作っていく面白さを川澄は感じていたようだ。どんな環境でも楽しんでしまう──川澄のポジティブなメンタリティと逞しさは、中学生の頃に形成されたのかもしれない。新チームは「何でもやってやろう!」という気概に溢れていた。
 
 ちなみに彼女には独自のサッカー練習法がある。コーチから習った新しい技術、例えばロングキックやインステップなどを教わったら、他のことは一切やらずに、そればかりをひたすら繰り返し練習するのだ。一転集中のような方法だが、これによって川澄は飛躍的にサッカースキルを上げていった。

数多くの大会への参加──それがチームを、そして川澄を強くした

 前向きな挑戦を続けていたチームは、いろんな大会へトライし続けた。神奈川は当時から、ほぼ毎週末に「招待杯」が開催されていた。招待杯とは、各地域から様々なクラブを招待して試合をする、いわば「地域のカップ戦」のようなもの。大和シルフィードは、招待杯に積極的に参加していった。

「その頃、私のポジションはトップ下かサイド、メグはフォワード。私がパスを出してメグが得点を決めていました。でも、その他にもいろんなポジションをやりましたよ。それが、今となってはいい経験になっていますね」

 チームメイトの中には、普段とは違うポジションや、以前から希望していたポジションを大会で試す選手もいたという。違うポジションをやることは他のチームメイトの大変さを知る上でも貴重な体験だ。また、現代サッカーでは、複数ポジションをこなすことは一流の選手にとって重要な要素とされている。大会参加はある意味、そういう体験ができる大きなチャンスだといえる。

自分で考える、自分から手を上げる、自分で一歩踏み出す

 当時の川澄について、加藤氏が貴重なエピソードを明かしてくれた。
「子供サッカー大会では、保護者や指導者たちは大会運営に追われて忙しいんですよ。そんな時、うちのチームは『ナホ、頼んだぞ』と彼女に伝えるだけで、試合の準備ができましたね。対戦相手を観察して、先発メンバーやフォーメーション、戦術までも決めてくれました。試合中に監督に向かって選手交代の指示を出したこともあったぐらいで(笑)。そうやって、子供たちだけで勝っちゃった試合もあるくらいですよ」

 監督やコーチの指示を待つことなく、自分で考えて、自分から手を上げる。そして、誰よりもサッカーを楽しむ。

 準備もなく人手も足りない。そんな新チームゆえの事情が、知らず知らずのうちに川澄を育てていったのかもしれない。「何でも楽しんでしまう」という彼女の精神は、こういった中学時代の自主性と積極性によって育まれていったのだろう。
 
 それともう一つ、彼女を語る上で欠かせない要素がある。それは「笑顔」だ。冒頭に出てきたアジア・カップでのインタビュー、彼女は終始笑顔だった。笑顔はチームメイトを含め、周りの人を明るくする不思議なパワーを持っている。川澄は中学生の頃から、試合に勝っても、負けても、その笑顔の力でチームメイトを励ましていたという。

 川澄のようにいつも前向きに、思う存分サッカーを楽しむ。その姿勢こそが、サッカープレーヤーとして、また人間としても大きく成長させてくれる。所属するクラブでも、日本代表でも活躍している川澄が、それを証明している。(了)

●【プロ選手たちの中学時代 第1回】中村憲剛 キャリア最大の挫折 “寄り道”をした3年間
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COPA COCA-COLA

COPA COCA-COLA(コパ コカ・コーラ)参加者へ川澄からのメッセージ

未来の日本代表へ
みなさん、こんにちは! 川澄奈穂美です。今回の大会では、みなさんの日頃の練習の成果をピッチ上で思う存分発揮してください。仲間と力を合わせ頂点を目指し、最後まで戦ってくれることを期待しています。がんばれ! 未来の日本代表たち!
中学生なら誰でも参加可能。エントリーはこちら!

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