Jリーグのある街で安く、いや1000円で飲み、そのクラブと街を知る。 眉をひそめて語るお固い戦術論や技術論はシラフに任せ、 酔いどれ著者、竹田聡一郎が描く、サッカーの本質を巡る旅。[サムライサッカーキング 019 2014年4月号掲載、文・写真=竹田聡一郎]
アウェー せんべろの旅~大阪編~
せんべろという言葉をご存知だろうか?
なんとwikiにも「1000円でべろべろに酔えるような価格帯の酒場の俗称」という真っ当な説明があるが、それだ。本誌リョーヘー副編集長は浅草橋「西口やきとん」でJリーグだってせんべろできるじゃないか、と右腕を出鱈目に振り回しながら熱弁した。 「Jリーグは地域密着でおらが街の誇りで身の丈経営が信条なんです。100年構想1000円泥酔なんです。タケダさん、それを証明してきてください。経費は大丈夫。2杯まで飲み放題っす。LCCや高速バスも乗り放題っす。難しいこと書いてほしくないっす。広島の共通認識とか、3バックへの回帰とか、どうせ書けないでしょ。サッカージャーナリズムじゃなくて蹴球与太話をお願いします」
気になる部分がいくつかある長セリフだが、まあ、いい。確かに僕はゲームレポートやポゼッション率よりもアルコールとリフティングを信じる。サッカーそのものも好きだが、サッカーに付随した旅がいっとう楽しい。
ということでまずはフォルランである。柿谷である。
「ゲームレポート? いらんです。記者席でビール飲むならバレないように」。リョーヘーからサッカー編集者にあるまじきメールを着信したし、ウルグアイ代表も日本代表も不発だったし、試合の描写は誰かがやってくれる。酒場へ。
ナニワの酒呑みなら誰もが知っている「なべや」の「豚すき焼き」で腹ごしらえをした後に、立ち飲み「いさむ酒店」へ入る。大きなカメラを持っていると、「シュウさん撮ってもらえ」と18時前なのにもうすでにご機嫌のじいちゃん3人組が声をかけてくれた。
「にいちゃん、東京か?」
「はい。セレッソの試合、観にきたんです」
「おお、有名やな。知っとるよ」
「シュウさん、ほんまか?」
「サッカーやろ。知っとる知っとる」
「ユウジがキンタのところでやっとる。6チャンに出とった」
「セレッソに世界的に有名なストライカーが入ったんですよ」
「おう、知っとるよ」
「名前分かりますか?」
「飯島やな」
誰なんだ、それは。他にもシュウさんたちは橋下徹のこと、年金のこと、最終的には近所にあるという「1泊1200円で洗濯もタダ」というホテルを遠慮する僕に強く薦めて、「もう金がのうなった」、「これい以上飲むと捕まるわ」、「ふぉっらん、覚えとくわ」3人で賑やかに合計2900円を払って、自転車で帰っていった。
もう1杯飲みたかったので、天王寺から環状線に乗って福島の鉄板おでん店「花くじら」に寄る。22時近いというのに混雑している。しゅんでいて生姜のきいたねぎ袋がヤットのようにいぶし銀的な美味さだ。
そのうちNHKサタデースポーツが始まった。隣に座ったカップルの男性が身を乗り出す。槙野の偶然っぽいゴールに「なんやねん、イカサマくさいのう」と吐き捨てた。
「ガンバサポなんすか?」
「サポってワケやないけど大阪やし。好きというより飽きないですね。阪神と一緒で弱い時代もあってJ2も経験して、でもクラブW杯も出てる。変なチームですよね」
「セレッソは興味ないですか?」
「正直、あんまり好きじゃない。けど、理由は特にないんですよ。僕、摂津なんですけど、ガンバのほうが前からあったし地元やし……。堺に生まれてたらセレッソ応援してたかもしれんですね。セレ女、嫁にもらって」
彼の田中明日菜似の彼女にこづかれていたが、やはりナニワなくともナニワ節である。理由はないけど地元のクラブを応援し、川向こうのやつらはなんとなく気にいらない。それってマンチェスターやミラノと図式はまったく同じで、Jリーグもそんなことになっているのか、練り芥子が鼻につーんと効いて僕は涙が出てしまう。
2万円もあれば、アウェイに行けることが分かった。うまい酒だって飲めるし、愉快な人々との出会いと交流があることを知った。逢着みたいなことも起こるかもしれない。ピッチの中と同様に、サッカーを巡る旅にはいろんなことが待っている。次はもう少し、遠くにいってみよう。
1979年神奈川県生まれ。ベルマーレのジュニア・ユースに在籍していた経験だけに頼りサッカーライターとなるが、戦術などを特に学ばずに草サッカーばかりして書いた著書『BBB ビーサン!!』や『日々是蹴球』(いずれも講談社)が一部の変わったファンに評価されている。「オレがサッカーを知らない人とのHUBになれたら」と語るが、仕事はたくさんないので「ハブはハブでも村八分のほう」と本人の知らないところで囁かれているのは内緒だ。