病気や事故で手足を切断した選手が松葉杖をついてプレーするアンプティサッカーの日本選手権大会が、2014年10月12日、神奈川県川崎市のフロンタウンさぎぬまで開催された。9月14日には東日本、9月21日には西日本とそれぞれ1stラウンドが実施され、勝ち抜いた4チームが、日本チャンピオンを争った。
■アンプティサッカーとは
30年以上前にアメリカの負傷兵が松葉杖をついてプレーするサッカーを、リハビリテーションとして始めたのが競技のきっかけ。フィールドプレイヤーは主に片足の切断者で、日常生活で使われる通常の松葉杖をついてプレー。GKは主に片手を切断しており、片手だけでプレーする。日本には2010年に導入され、2年に1度開催されるアンプティサッカーワールドカップにも、日本代表は2010年、2012年と出場。来月末からメキシコで開催されるワールドカップにも出場が決まっている。
■準決勝・三位決定戦
決勝ラウンド第一試合は、東日本2位のアシルスフィーダ北海道AFCvs西日本1位のFC九州バイラオール。昨年のチャンピオンで今年の6月に開催されたレオピンカップでも優勝を飾った九州が、序盤からゴールを重ね、力の差を見せつけて5-1で勝利し、決勝へ。
第二試合は、東日本1位のFCアウボラーダ川崎vs西日本2位の関西セッチエストレーラス。日本にアンプティサッカーを普及させるきっかけを作った元ブラジル代表のエンヒッキ・松茂良・ジアスが率いる川崎と、2012年ロシアワールドカップの日本代表キャプテンを務めた川合裕人がチームを束ねる関西が一進一退の攻防を見せる。前後半見せ場を作りながらも、互いに譲らないままスコアレスドローでPK戦へ。後半途中出場した川崎のGK平賀智行が関西のPKを2本ストップし、PK戦は4-2。決勝戦は川崎が九州と対戦することになった。
3位決定戦は、レオピンカップ後に関西セッチエストレーラスに加わった中学3年生の川西健太が2ゴール。北海道が1点を返した直後、48才ながら衰えない気迫を見せる川合がゴールを決め3-1。そのまま関西が勝利し、3位となった。
■延長戦までも連れ込んだ決勝戦
決勝戦はエンヒッキ・松茂良・ジアスをDFに下げた川崎が、九州のパスサッカーをストップ。カウンターからの一振りでエンヒッキが先制点を挙げると、その後は九州の波状攻撃に耐え続けた。このまま川崎の優勝かと思われた後半20分、九州のエース萱島比呂が執念のゴールで同点に。しかし、激しく続いた10番同士の争いは、カウンターで抜け出したエンヒッキを萱島が後ろからチャージし、一発レッドで退場となり、新たな局面を迎えることになる。
前後半50分では決着がつかず延長戦に。数的不利の中、カウンターに勝機を見出したかった九州だが、試合はついに延長後半5分に動いた。ゴール斜め左側からFKを蹴るエンヒッキが、九州の意表を突くパス。右サイドにいた細谷通が走り込み、ダイレクトで左足を振り抜いた。これが決勝ゴールとなり、川崎が昨年の雪辱を晴らし、優勝を飾った。
「2回連続九州に負けていて、その悔しさがずっとあったんです」とはエンヒッキの試合後の言葉だ。昨年の日本選手権の決勝、また今春のレオピンカップでは準決勝で、いずれも九州に敗れていた川崎。「九州に勝てるか、という不安もありましたけど、100%以上の力をみんなが出せて。延長戦の末、勝てたことがホントにウソみたいに思えて。夢がかなったんだなって」と語ってくれたエンヒッキだが、決勝ゴールを決めた盟友・細谷のMVPを誰よりも喜んだ。「前回のワールドカップ、彼は代表メンバーに選ばれなくって、落ち込んでいた時期があって。それがみんなの前で活躍して、MVPとってくれて。チームが苦しみながら、一つになってつかんだ優勝ですね」
■日本代表、メキシコワールドカップへ
決勝戦を終えて、日本代表監督の杉野正幸は「全体のレベルが上がってきたことを強く感じました。決勝もレッドカードはありましたが、九州もいいプレーをしましたし、決勝戦にふさわしい内容でしたね」と日本代表選考を兼ねたこの大会の成果を語った。
11月末からメキシコで戦う日本代表メンバーは、大会終了後2時間あまりで発表された。優勝した川崎から5名、準優勝の九州からは4名など、14名が選ばれた。前回大会で初の勝ち点1を獲得したアンプティサッカー日本代表。次なる目標はワールドカップでの初勝利。スタッフ4名を加えた日本代表19名が、日本アンプティサッカーの夢を手に、もう一つのワールドカップを戦う。