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<イタリア発!>ミラン番記者10人が分析…今季の本田は“ここが変わった”

2014.11.06

during the Serie A match between AC Milan and ACF Fiorentina at Stadio Giuseppe Meazza on October 26, 2014 in Milan, Italy.

[CALCiO2002 2014年12月号掲載]

 新シーズン開幕から目覚ましいパフォーマンスを見せる本田圭佑。イタリアの有力メディアのミラン担当ジャーナリストたちは、彼のパフォーマンスをどのように評価しているのだろう。日々の取材から書き溜めた“ケイスケ・リポート”を明かす。

AC Milan v ACF Fiorentina - Serie A
[写真]=Getty Images

現時点でホンダは外せない選手

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』マルコ・パゾット記者 採点「7.5」

 2つのコンディションが変わり、ホンダは再生した。1つは彼自身のコンディション。フィジカル、メンタルともに良い方向にある。今年1月にミランに加入した時のホンダは、特にフィジカル的に準備不足という感が否めなかった。CSKAモスクワとミランの交渉が長引いたことで、メンタルも相当に疲弊していたのだろう。一方、今シーズンはW杯後の休養と体作りがしっかりとできたのだと思う。アメリカ遠征の時から動きにキレがあった。

 もう一つは周囲のコンディション、つまり環境が変わったこと。昨シーズンのミランは極度の不振で、監督もアッレグリからタッソッティへ、そしてセードルフへと目まぐるしく交代した。ホンダが入団したのはまさにその混乱の最中だった。自身のコンディションが万全でない上に、チームのコンディションも最悪、それで良い結果が出せるはずもない。

 今シーズン、すべての面において大幅にパフォーマンスを高めているが、課題を挙げるなら中盤から前線に上がる際の動き。スピードで勝負するタイプではないのでその点は置いておくとしても、フリーランニングのコース取りやタイミングなど、動きにもっと工夫がほしいと感じられるシーンがいくつかあるのは確かだ。守備面も今のところは合格点を与えられるが、まだ向上の余地はある。

 それでも、前線の、特に最後の15メートルのエリアでの動きは本当に素晴らしい。現時点でホンダは外せない選手となっている。たとえカカーが残留したとしても、ホンダによりベンチに追いやられていただろう。今シーズンのホンダの数字は、10ゴール10アシストになると予想する。

多くの“有効なプレー”をしている

『コリエレ・デッロ・スポルト』フリオ・フェデーレ記者 採点「8.5」

 ホンダが「ヨーロッパのサッカーを知らなかった」とは思わない。しかし、ここイタリアのカルチョを巡る環境は、オランダ、ロシアのそれとは大きく違う。サッカーのクオリティあるいはクオンティティ、戦術的アプローチも落としどころも、すべてにおいて一段階、いやそれ以上に高いレベルが求められる。それだけではない。周辺の環境、つまりサッカーを取り巻く文化ともいうべきものも難しくなっている。

 今シーズンに入っての彼の好調は、彼がそれらの違いに気づき、順応を始めたことが引き金となっている。今シーズンのホンダは、昨シーズンよりもずっと多く走り、ずっと多くの“有効なプレー”をしている。目立つ仕事、華麗なプレーだけでなく、いわゆる汚れ仕事でもチームに貢献できている。一般的に10番タイプの選手は、前者は得意でも後者が不得手だったり、やろうとしない傾向にあるが、イタリアではそれでは通用しない。決して簡単なことではないが、ケイスケはそのハードルを乗り越えた。

 もう一つ注目すべきは、プレースキックでの力量。昨シーズンは大して印象に残らなかったが、ここに来て彼のキックは際立ってきた。プレシーズンのバレンシア戦、そして第6節のキエーヴォ戦で見事なFKを決めている。故障のモントリーヴォが不在の間に一つでも多くの実績を残し、キッカーとしての信頼を勝ち取っておきたい。セットプレーで得点やアシストを重ねることは、評価を得る点でとても重要だ。

 ホンダ自身の得点は12から13になるだろう。さすがにセリエAの得点王になるとは思わないが、チーム得点王であれば十分に射程圏だ。

Hellas Verona FC v AC Milan - Serie A
[写真]=Getty Images

ピッポとは、言葉を超えて通じ合う何かがあるのかも

『コリエレ・デッラ・セーラ』アリアンナ・ラヴェッリ記者 採点「7.0」

 インザーギ監督からの信頼が大きい。昨シーズンの出来から考えるに、控えからのスタートになると思われていたが、夏のアメリカ遠征あたりから流れが変わってきた。自身が優れたストライカーだったピッポとは、言葉を超えて通じ合う何かがあるのかもしれない。序盤戦の素晴らしい活躍で、指揮官だけでなく周囲もホンダを評価し、信頼するようになっている。

 今のミランにとって、ホンダとメネズの2人はなくてはならない存在。昨シーズンは手術の影響もあってかコンディションが最悪だったが、今シーズンは動きが全く違う。クイックネス、運動量の2つが格段に向上している。チームメートとの連係も昨シーズンとは全く別のレベル。特に右サイドでのアバーテとの連係は非常に良い。第4節のエンポリ戦では、アバーテのパスをホンダが冷静に決めてゴールを奪った。ああいう形がこれからも増えてくると、他のチームにとっては脅威となる。2人はピッチの外でも仲が良いらしい。最初はやや苦労したようだが、時間が経つにつれチームに溶け込みつつある。

 今の4-3-3のシステムが今後も続くことは、ホンダにとって好都合だ。右サイドのウイングというポジションではあるが、状況を見て中央のスペースに入ってプレーできるため、トップ下の資質も生かせる。相手の厳しいマークを避けながら、より決定的な仕事ができるということだ。FKでの得点機会があることも考慮すると、得点は2桁に乗るだろう。15点? それは少々難しいと思うが、ないとは断言できない。

今後の課題は継続性。気になるのはアジアカップ

『ラ・レプッブリカ』ステファーノ・スカッキ記者 採点「7.5」

 今シーズンの好調の要因は、起用されているポジションと役割にあると思う。セードルフの4-2-3-1においては、2列目の右サイドということで、ピッチ中央のエリアから隔離されてプレーすることが多かった。そういう意味では、インザーギの4-3-3はホンダにとってプレーしやすいはず。よりゴールに近い位置でボールを受けられるし、より中央に入ってプレーできるし、エリア内に走り込む機会も増えている。いずれもホンダの攻撃面での特性に合った形だ。

 第2節のパルマ戦でのヘディングによるゴールは本職のストライカー顔負けだったし、第3節のユヴェントス戦でも、惜しくもブッフォンに阻まれたがヘディングでゴールを脅かしている。日本代表で彼を指導したザッケローニも、もっとゴールを狙うようアドバイスをしたそうだ。今シーズンのホンダにはゴールに対する貪欲さを感じる。FWのポジションでプレーしている限り、それがどんな形であれゴールは最高のアピール材料だ。

 今後の課題は継続性。気になるのは1月のアジアカップだ。長期間の代表合流でミランでの良い流れが断ち切られることになる。しかも、オーストラリアでは北半球と真逆の気候。時差や長旅といったマイナス要素が重なる。ここでコンディションを崩して昨シーズンに逆戻り、というのが考えられる最悪のシナリオだ。

 あとは、プレースピードの速い強豪チームとの対戦でどれだけ力を発揮できるか。ユーヴェ戦ではそこそこに張り合っていたが、スピードが課題の彼にとって、今後、ローマ、ナポリ、フィオレンティーナ、インテルとの対戦の時にどんなパフォーマンスを見せるかに注目したい。

イタリア語も使い始め、適応しつつある

『コリエレ・デッロ・スポルト』ジュゼッペ・ディ・ステファーノ記者 採点「7.5」

 ホンダの何が変わったか? 中身(能力)は何も変わっていない。今シーズンはそれがスムーズに表に出てくるようになっただけだ。エンジンの性能はもともと高かったのだが、昨シーズンは車輪がスムーズに回転しなかった。今は足が非常に軽くなっている。単純な話ではあるが、運動量の増加こそが、今シーズンのホンダの好調を支えている一番の要因だ。

 鳴り物入りでミランに入団しながら結果が出なかった昨シーズンは、多くの批判が彼に向けられた。新聞には「期待外れ」の文字が踊り、サン・シーロでも味方のティフォージからブーイングが起きた。我々も批判的な報道をせざるを得なかった。実際のところ、「戦犯」が必要とされていたのだ。かなり厳しい状況だったが、それでもホンダはつぶれなかった。それどころか、一回りも二回りも大きく成長したところに精神力の強さを感じる。

 現在の右サイドのポジションはチームのバランスを考えると収まりがいい。特にアバーテとの相性が良く、試合を重ねるごとにコンビネーションに磨きがかけられている。単にアバーテの攻撃参加をホンダがうまく生かすだけでなく、守備面でも2人は巧みな連係で相手に危険なスペースを与えていない。当然ながら、前者は割と簡単だが後者は難しいものだ。

 ミラン加入から10カ月が経過し、徐々にイタリア語を使うようにもなっている。もちろん、まだペラペラというわけではないだろうが、ここイタリアではやはりイタリア語を使うのがベターである。周囲との連係が良くなっているのも、語学力の向上が関係しているのだろう。あらゆる意味で、ホンダはミランに、そしてイタリアサッカーに適応しつつある。

AC Milan v AC Chievo Verona - Serie A
[写真]=Getty Images

今シーズンのミランの最大のサプライズ

『Rai』フランチェスコ・ロッキ記者 採点「8.0」

 ホンダは今シーズンのミランの最大のサプライズだ。まさか、シーズンのこれほど早い段階で、新しいチームメートと新しい戦術に順応し、これほどまで多くのゴールを生み出すとは、正直なところ予想のはるか上を行っている。

 彼が覚醒できた最大の理由は、インザーギ新監督からの信頼を得られた点にある。昨シーズンに十分な働きができなかったホンダには、多くの者が懐疑的な見方をしていた。ただ、インザーギだけは最初から彼のクオリティの高さに確信を持っていた。

 日本のサッカーファンには言うまでもないのかもしれないが、ホンダは信頼されてこそ力を発揮できるタイプ。自分中心のチームであればあるほど活躍できる。開幕のラツィオ戦、続くパルマ戦での好パフォーマンスにより、チームメートも彼にボールを預けるようになった。こうしてボールタッチ数が増えることで、ホンダがより活発になるという好循環が生まれたのだ。

 純粋なストライカーではないにもかかわらず得点感覚が鋭い。FKの精度にも驚いたが、ヘディングもできるのかと改めてその能力の高さを感じた。得点の“匂い”を感じたら、迷わずシュートなりラストパスなり、ゴールに直結するプレーを選択できるのが強みだ。

 今の3トップの右というポジションはホンダにとってベストだろう。エル・シャーラウィが復帰しても、ホンダの地位は揺らがない。このままゴールをコンスタントに積み上げていければ最高だ。ミランにとってうれしいサプライズとなったこの日本人ジョカトーレには、シーズン15ゴールを狙ってほしい。

監督の戦術における“主要な部品”の一つ

『コリエレ・デッラ・セーラ』アレッサンドロ・ボッチ記者 採点「7.0」

 ここまでのホンダの活躍は素晴らしいの一言。シーズン序盤のミランにおける準MVPだ(MVPはわずかな差でメネズ)。

 ここ数年、「セリエA の凋落」という言葉をよく耳にする。選手個々のネームバリューを見れば、そう言われても仕方ないのかもしれない。ただ、「戦術」という点で言えば、カルチョはまだ世界のトップクラスにある。

 昨シーズンのホンダが最も苦しんだのはその部分。オランダやロシアでは経験しなかったハイレベルの戦術に順応できていたとは言いがたい。ただ指示されたポジションでプレーするのではなく、チーム全体のメカニズムをいかに理解し、その中で自分の役割をこなすか。日本代表でザッケローニの指導を受けたことは良い予習になっただろうが、すぐに適応するには十分ではなかった。

 現在のポジションと役割が、昨シーズンのものより彼に向いているのは間違いない。ただ、彼自身がイタリアの戦術、プレーのメカニズムを理解できたことのほうが大きいと私は思う。今後、昨シーズンのような3MFの右サイドで起用されたとしても、良いプレーを見せてくれるはずだ。

 前線での決定的な仕事だけでなく、後方での貢献を覚えたホンダは、インザーギ監督の戦術における“主要な部品”の一つとなった。インザーギは個人的にもホンダの資質を好んでいるようだ。ただ、カルチョは水物。今後はすべて彼自身、そしてチーム状況次第だろう。それでも、偉大なるプロフェッショナル精神を備えていることはプレシーズンを含むこの数週間で証明できた。今シーズンの最終的な数字は、ゴールは最低でも2桁、アシストは7か8は行くだろう。

Parma FC v AC Milan - Serie A
[写真]=Getty Images

アバーテとのコンビは日本の“新幹線”のよう

『コリエレ・デッラ・セーラ』カルロ・ペッレガッティ記者 採点「7.0」

 ゴールのバリエーションがすごい。右足、左足、ヘディング、FK…。これはとりもなおさず、ホンダのサッカー選手として、アタッカーとしての豊かな資質を表している。プレーの選択肢が多い選手は、味方にとっては実に有益な、そして相手にとっては厄介な存在ということでもある。まだ我々に見せていないプレーのバリエーションをホンダは持っているのではないか、そんな気もするが、これは日本で彼を熱心に追っている人のほうが詳しいだろう。

 もう一つ私が注目しているのは、彼のプレーの“センプリチタ”(シンプルさ)だ。カルチョで最も重要かつ難しいのは、ナチュラルに、そしてシンプルに、偉大な仕事をすることだ。ヴェローナ戦で決めた2点目のゴールがその顕著な例。ホンダは相手のプレッシャーが厳しい前線に身を置きながら、何食わぬ顔をして、シンプルでありながら非常に有効なプレーをする。カンピオーネの器と言って差し支えないだろう。

 アバーテとのコンビネーションの良さも目立つ。あの右サイドは日本の“新幹線”のようだ。ホンダとアバーテの2人で迅速に、そして容易にボールを敵陣深くへと運んでいる。

 ただし、油断は禁物。この世界では、どこに大きな罠が潜んでいるか分からない。今はセリエAで最も注目され、称賛されているが、それが今後も続くと決まったわけではない。故障など個人の問題はもちろん、チームが不振に陥れば活躍がかすんでしまう。もちろん、ゴールを決める確率も下がっていく。ミランがどれだけ好調さを保つかも、今後のホンダの評価を大きく左右するだろう。

目立たないが重要な自己犠牲の動きでもチームを助けている

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』ジョヴァンニ・バッティスタ・オリヴェーロ記者 採点「7.0」

 昨シーズンよりもプレーエリアが15メートルから20メートルほど前進し、ペナルティエリアに飛び込むプレーが増えたことで、ホンダの攻撃的資質が最大限に発揮できるようになった。好調の秘訣はこのプレーエリアの変化だ。

 しかし、あまりに続けていると相手DF陣に先読みされる。ここまではメネズの突破こそが相手が最もケアしなければならない点であり、逆サイドのホンダのゴール前への侵入は見逃されがちだった。ただ、この状況が続くほどセリエAは甘くない。今後はエリア手前からのミドルシュートなど(エンポリ戦で決めているが、もっと遠い位置からでも十分狙えるはずだ)、シュートのバリエーションを増やし、相手に的を絞らせない工夫が必要だろう。コンスタントにゴールを積み重ねるには、相手に対策を取られる前にその上を行く必要がある。

 ここまでのパフォーマンスを見る限り、ゴールに注目が集まるのは当然のこと。しかし、今シーズンのホンダは味方のカウンターに同調する動き、中盤どころか自陣深くまで戻ってのカバーリングなど、目立たないが重要な自己犠牲の動きでもチームを助けている。首脳陣からの信頼はもちろん、チームメートからの信頼も急激に高まっているのは、こうした影の働きが評価されているからだ。

 今シーズンのミランはヨーロッパカップ戦の負担がないため、フィジカルコンディションを維持するのは比較的容易だ(ただしアジアカップは要注意)。プレーのバリエーションを増やし、コンディションで大崩れすることがなければ、今シーズンは12得点7アシストぐらいの数字は残せるだろう。もっと上を目指してほしい。

近い将来にミランのキャプテンを務める意気込みを持ってもらいたい

『トゥットスポルト』ステファーノ・パスクイーノ記者 採点「7.5」

 良いスタートを切った。当初は控えに回る可能性が高いと思われていたが、プレシーズンマッチからコンスタントにゴールに直結する仕事を見せ、インザーギ監督の信頼を勝ち取った。昨シーズンとはフィジカルコンディション、チームへの順応度などすべての点において全くの別人。今は、完成された攻撃的MFという印象を受ける。

 ホンダがミランでレギュラーポジションを確たるものとした背景として、カカーの退団が大きかったと言う意見もあるが、私はリッキーが残留していても、ホンダは変わらずレギュラーとして活躍していたと思う。それほど前線で決定的な仕事を、コンスタントにしているのだ。

 あえて課題を言わせてもらえば、パーソナリティをもっと発揮してもらいたい。まだ加入して1年にも満たないが、実力的にも年齢的にも、ミランのリーダーの一人となってピッチ上でさらに存在感を高めてほしいものだ。今のミランには確固たるリーダーがおらず、それが近年の低迷を招いた一因となっている。彼は周囲に良い影響を与えられる選手。まだ時間はかかるだろうが、近い将来にミランのキャプテンを務める意気込みを持ってもらいたい。日本人選手の宿命として、入団時点では「背番号10を与えたのは商業目的では?」と見られることもあった。それを覆した今、さらに上を目指してほしい。

 アジアカップの離脱で困るのは、ミランであり彼ではない。故障などのアクシデントがない限り、大会後も彼はチームの主力であり続けるだろう。ゴール数は2桁にやや届かない程度、アシストも同じぐらいだと予想する。

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