写真=小林浩一、Getty Images インタビュー・文=小谷紘友
本人すら想像していなかった1年である。周囲に与えたインパクトは、改めて説明するまでもないだろう。
J1で積み重ねたゴールは、新人最多となる13得点。初招集された日本代表では、新体制での初ゴールも挙げた。日本サッカー界に突如として現れた青年だが、1年の歩みを振り返ると、一足飛びの飛躍というよりも地道な努力で上り詰めたという表現を想起させる。
自らが課した目標は、一つひとつ乗り越えてきた。ルーキーイヤー。武藤嘉紀の自信は着実に、そして確かに膨らんでいった。
環境が一気に変わったのは、うまくなりたいと思い続けた結果
――今季は武藤選手にとって、大きな変化のあった1年だったと思います。振り返るとどのようなシーズンでしたか?
「1年前にプロ入りした時には想像していなかったような状況が起きて、その中でこれだけのプレーができたということは想像以上で、充実していました」
――ご自身では開幕前、どのようなシーズンを想像していたのでしょうか?
「まず、FC東京でレギュラーを取ろうと考えていました。し烈なレギュラー争いに勝とうと。それが始めの目標でしたが、開幕スタメンで起用して頂きました。そこで、次はレギュラー定着に目標が変わり、一つひとつの目標をクリアしていくことで、段々と大きな目標が出てきました。Jリーグで結果を残すことで日本代表という大きな目標も見えてきて、それが今年掲げた中では一番大きかったと思います」
――1年前、現実的に日本代表入りは考えていましたか?
「全く思っていなかったです。やるからには日本代表を目指さないといけないと思いますが、1年目のルーキーがいきなり『日本代表になれる?』と聞かれて、『なれる』とはどう考えても答えられないです。1年目で日本代表になれる自信もなく、目標をクリアしていくごとに自信がついてきていたので、始めから『今年は日本代表になる』という大きな目標を持っていたわけではありませんでした」
――結果として日本代表まで辿り着いた要因について、どのように考えていますか?
「本当に、うまくなりたいと思い続けた結果だと思います。どれだけ結果が出ても、決して満足しなかったことが、これだけ一気に環境が変わった要因ではないかなと思います」
――注目を浴びると同時に、大きなプレッシャーもあると思います。
「それは本当に感じています。しかし、結果が出ないことで『プレッシャーに負けた』と言われたくなかったですし、『期待に応えられない選手』と思われるのも嫌でした。自分の見栄を全て捨てて、がむしゃらに練習しました」
――プレッシャーを一番強く感じたのはいつ頃でしたか?
「代表招集の前や代表戦後の試合でした。毎試合ゴールを決められればベストですけれど、今までとは違って1点取れないだけでも記事になってしまいますから。それでも、大きな注目を浴びているということで、絶対に結果を出したいという反骨心みたいな思いもありました」
――負けず嫌いですね。
「負けず嫌いの中の負けず嫌いだと思います。普段はあまり人には見せませんが、陰からスッと抜いて、相手が気付かないうちに勝っちゃうみたいな感じです」
――武藤選手は常に一貫していて、メンタルが強いという印象を受けます。
「いや、そんなに強くないですよ(笑)。確かにプレッシャーに押し潰されそうな時もありますが、それを人前では絶対に出したくない。弱い人間でありたくないという思いが強く、その負けず嫌いの心だけが、何とか自分を支えてくれているのかなと思います」
――プレッシャーに打ち克って、J1新人最多記録タイの13ゴールを挙げました。満足感と記録を超えられなかった悔しさ、どちらが強いですか?
「半々ですね。満足していないと言うことが一番良いと思う一方、最初の目標だった10得点を超えて有言実行できたことは評価したいです。ただ、14点目を挙げられなかったことは力不足の何ものでもないので、来年は更にゴールを挙げられるように、努力あるのみですね」
――得点ランクで武藤選手よりも上にいる選手には、PKでの得点も含まれています。武藤選手はPKなしで13ゴールを挙げられただけに、価値は大きいのではないでしょうか?
「そう見ると価値はあるかもしれないですが、自分自身もPKを蹴っておけば良かったとも思いますね(笑)。上位の選手にはPKを蹴る勇気があり、自分は監督の決めた選手に自分で取ったPKを譲ってしまっていたので、貪欲に自分の取ったPKを蹴っていれば記録も塗り替えられていたかもしれません。その部分のメンタルも来年改善していかないといけないと思います」
―― 一方で、アシストは一つでした。
「そうですね。アシストに関しては、もっと増やす必要があります。ラストパスや仕掛けた時の最後の精度が低いことは自分でもわかっています。アシスト面での結果はついてきませんでしたが、自分の課題がわかったということも、今年の大きな収穫でした」
自分自身にプレッシャーをかけて最高の結果を出せれば良い
――かつて日本代表を憧れと語っていましたが、今年の活躍で常連とも言える立場になったと思います。日本代表は今、どういう場所になっていますか?
「もう憧れと言っていられない状況になり、日本代表として日の丸を背負っている限りは先輩も後輩も関係なく、日本代表を勝利に導けるプレーをしないといけないです。国民のみなさんの期待を背負い、緩いプレーは絶対にできません。とにかく日本が勝つために得点やアシストという結果を残せたらベストだと思っています」
――11月に行われたオーストラリア代表戦の前日会見で、(ハビエル)アギーレ監督が『ベストの11人を出す』と語っていました。実際に先発出場されたことをどのように捉えているかを聞かせてください。
「オーストラリア戦はそうだったかもしれないですが、1試合の出来によってベストの11人は変わってくるはずなので、毎試合がアピール勝負になると思います。レギュラーでいられる保証はどこにもありませんから、監督から求められているプレーや結果を残していかないといけません」
――日本代表を経験して、通用した部分と足りないと感じた部分はありましたか?
「世界各国の代表チームと試合をして、全てのレベルを一段階、二段階上げないといけないと感じました。普通のプレーをすることを求めているわけではなく、代表でも活躍できる選手になることを求めているので、周りと同じレベルよりも更に良いパフォーマンスができるように、チームの勝利に貢献することはもちろん、個人としても大きな存在になりたいと思っています。ドリブルやスピードが(10月に対戦した)ジャマイカ相手に通用しなかったこともあるので、相手の国々によって、通用するところや通用しなかったところが浮き彫りになったからこそ、スキルをもう一段階、二段階上げないといけないと感じました。何か一つを上げるのでは足りず、全ての能力を上げないと活躍できません。普通のプレーをすることはできるかも知れませんが、自分の求めているような活躍をして、チームを勝利に導くために、全てのスキルを上げていきたいです」
――クラブでも日本代表でも、ゴールへの意識が他の日本人選手とは際立って高く感じます。
「以前はサイドハーフをやっていたこともあり、得点への意識は元々高い方ではありませんでした。ただ、今年の途中からFC東京でFWとして起用され、ゴールを奪うために必要な動きや、得点を取りやすいポジショニングを模索しながら、色んな人の話を聞いて、マッシモ(フィッカデンティ)監督の指導を受けながら、何とか点を取る術を自分で見つけ出していきました。その後に初めて得点できたときは本当に嬉しかったですね。今までは、ドリブルで相手を抜くことが通用するとわかっていて個人的にも楽しかったのですが、今はそれで満足できなくなりました。得点することが第一優先になり、とにかく得点しないと満足できないので、ゴールに対する考え方は大きく変わったと思います」
――代表初ゴールの際、本田圭佑選手をおとりに使った動きもそうですし、J1第14節の清水エスパルス戦でも米本拓司選手がノーマークになっていながら、ドリブルで2人抜いて決めたゴールは、得点への執着心を感じさせました。
「どちらの場面もパスを出しておけば簡単だったかも知れませんが、自分で決める自信もありました。もしもパスを出してその選手がシュートを外してしまったら、絶対に後悔したはずなので、それなら外してしまっても自分で打って、決め切ってやろうという気持ちの方が大きかったです」
――来年1月に行われるアジアカップに臨む代表メンバーにも選ばれました。アジアの国々相手にどれだけできるか、すごく良いチャレンジの場だと思います。
「そうですね。日本の方々の思いを背負っているということで、結果が全てです。勝つことで得られるものは大きいと思いますから、何が何でも優勝して、自分も胸を張って『貢献できた』と言えて大会を終われたらベストですね。そのためには、個人としても結果を残すことが大事なので、初めての国際大会という言い訳をせず、自分自身にプレッシャーをかけて最高の結果を出せれば良いと思います」
――Jリーグアウォーズの時、『開幕前に良い意味で予想していなかった結末を迎えた』と語っていました。来年はどのような1年にしたいですか?
「どのような来年になるかはわかりませんが、今年以上の活躍を残さないといけないですね。プレッシャーは更にかかるはずですから、それを跳ね除けて、さらに『武藤はできるやつだ』とみんなに思ってもらいたいです」
――これまでも色々と目標を設定されてきました。次の目標は既に決まっていますか?
「やはり確固たるポジションです。生半可な結果では、揺るがないポジションを掴み取ることはできないと思うので、『左サイドは武藤だ』と言ってもらえるようにアピールをして、クラブでも代表でも最高の結果を残していきたいです」
1月に行われ、日本代表の連覇がかかるアジアカップのメンバーに、武藤は選ばれた。
慌ただしい1年は終わりを迎えたが、確かな自信と大志を抱き、今も着実に歩みを進めている。1年後、再び歩みを振り返ることがあるならば、自身の残した足跡が再び想像を超えていることを期待したい。
周囲の、そして何より本人の。