2014シーズンの日本サッカーは、ガンバ大阪の3冠という偉業達成をもって幕を閉じた。
Jリーグの年間MVPに選出された遠藤保仁とともに、特筆すべきパフォーマンスを示したのが宇佐美貴史である。攻撃の絶対的なキーマンとして躍動した彼は、時にストライカーとして、時にチャンスメーカーとして、その存在感を存分に発揮し、タイトル獲得に大きく貢献した。
自らの力でチームにタイトルをもたらしたい。常々そう口にしていた宇佐美にとって、2014シーズンは自身の“幅”を広げる革新的な1年であり、目指す高みを力強く上るためのスタート地点となった。
「まだまだ低いところにいると思います。ただ、ドイツで苦しい思いをして、J2から自分自身を作り直すことができたという意味では、これから上がっていくきっかけを作れたと思う」
そう語った彼は、自身の“今”をどのように見ているのか。また、次の戦いに向けてどのようなイメージを描いているのか。その思いを聞いた。
自分のプレーを変化させることができている
――宇佐美選手にとって、2014年はどのような1年だったのでしょう?
「シーズン序盤は大きなケガもあって、目標としていたブラジル・ワールドカップへの出場の可能性もゼロになってしまって……。コンディションがなかなか上がらなくて苦しい時間が続きました。ただ、シーズンを通して考えれば、チームとしては3つのタイトルを取ることができましたし、僕自身もいろいろなものを発見できた1年だったと思います」
――改めて振り返ると「良い1年だった」と言えますか?
「そうですね。そう言っていいと思います。やっぱり、チームとして3冠という目標を達成できたことが大きい。全員の力、総合力で勝ち取ったタイトルだと思います。今のガンバには本当にいい選手が多いし、控えに回っていた選手たちもピッチに立てば結果を残す。そういう環境の中で切磋琢磨しながらやってきた結果なので、喜びは大きかったですね」
――シーズン終盤は負ける気がしなかったのではないかと思うのですが。
「はい。無心でやれたというか、勝つことだけを考えながらプレーできていたと思います」
――ただ、シーズン前半戦は思うような結果が出せなかった。どこが変わったのでしょう?
「いや、僕の実感としてはそれほど大きく何かが変わったとは思っていません。『中断期間にどこをどう変えたのか』とよく聞かれましたけど、チームとしてやるべきことは何一つ変わっていない。ただ、選手個々のコンディションは時間が経つにつれて明らかに上がりました。阿部(浩之)ちゃんや(倉田)秋、それにコンちゃん(今野泰幸)も中断期間以降どんどんコンディションを上げていきましたからね。それにともなって、チーム全体としてのコンディションが上がってきたことが大きかったと思います」
――宇佐美選手自身は、1.5列目のようなポジションでプレーする機会が増えました。
「2013シーズンは完全に“ストライカー”としての役割を期待されていたんですが、2014シーズン、特にパトリックが加入した夏場以降は少し引いた位置でプレーするようになりました。意識していたのは、とにかく良い位置でボールを受けて、ゴールを作り出すこと。パトリックへのアシストが増えるようになってからは相手の対応も変わりましたし、引いてパスを受けるプレーが警戒されるようになったと感じました。でも、それは当たり前のことなので、特に気にすることなくプレーできたと思います」
――アシストが増える一方、自らゴールを決めるペースは少し落ち着きました。それについてはどのように考えていたのでしょう?
「いや、全然、何も考えていませんでした。『ゴールが減った』と言われているのは分かっていましたけど、僕は全く気にしてなかったですね。ゴールは生まれる時は生まれるし、生まれない時は生まれないものなので。だから、そういうことを超越した力が必要だと思いますし、ゴールが減ったからと言って自分自身を悲観するようなことはありませんでした」
――とはいえ、決めるべき時に決めるあたりにエースとしての風格を感じました。
「やっぱり、そういうポジションを与えてもらっているわけだから、責任は果たさないといけないですよね。そういう意味では、タイトルが懸かった試合でゴールを決められたことは良かったと思います。まさかこんなに早く3つもタイトルが取れると思っていなかったけど、チームにタイトルをもたらしたいと思っていたし、J2からJ1に上がってこういう結果を得られたことについては少なからず達成感がありました」
――自身の成長を感じることができた1年だったのでは?
「ドイツに行っている時からプレースタイルがどんどん変わっているように感じているし、2013年の自分と2014年の自分も大きく違う。そうやって自分のプレーを変化させることができているということについては、少しずつ成長することができているのかなと感じています」
――少しずつ、「何でもできる自分」を実感し始めていると。
「そうでありたいですよね。どこでパスを受けても勝負できる。引いた位置で受けても、パスで打開できる。前で受けても、ドリブルで仕掛けられる。自分と味方をうまく使いながらリズムを作って、チャンスを作ることができる。そういう自分になれれば相手の脅威になると思うし、少しずつできているという実感はあります。ただ、いろいろなことができるということは、ゴールから離れてしまうということでもあると思うので、そこはうまくバランスを取りたいなと」
自分はまだまだ中途半端な選手
――つまり、いろいろな局面で存在感を発揮できる選手になっても、ゴールに対するこだわりは変わらない。
「はい。そこは全く変わりません。自分を使おうが、味方を使おうが、最終的にゴールを生むというプレースタイルが自分の特長だと思っているので」
――一方で、ドリブルに対する考え方には少し変化が見られているような気がします。
「確かに、そこは変わりました。ポジションによるところも大きいと思いますけど、サイドのポジションでプレーしている時ほどドリブルの比重は大きくない。『どうやってゴールを生むか』という答えから逆算して、その時にベストな選択をする必要があると思うので。もちろん、個人的にはドリブルを生かしたいとか、ドリブルで相手を抜いてゴールを決めたいという気持ちはありますよ。でも、以前と比べてその比重が小さくなってきているというか」
――そうした考え方があるからこそ、逆にドリブルの威力が増すという効果もあるのではないかと思います。
「そうですね。やっぱり、“使うべき時に使う”ということが大事なんだと思います。1対1では絶対に負けない自信があるし、そこで負けていたら話にならない。むしろ、1対2でも1対3でも負けたくないと思っているし、ドリブルに対するこだわりも強いので、それをどうやって使うかということが大切なんだと思います。2014シーズンは、そういう意味での“バランス”を考えた1年でもありました」
――バランスという意味では、守備に対する考え方も変わったのではないかと思います。長谷川健太監督からの要求も多いのではないかと思うのですが。
「はい。現代サッカーで生き残っていくためには、絶対にやらないといけないことですからね。(リオネル)メッシくらい点を取れるなら話は別かもしれないけど(笑)、それと比較すれば自分はまだまだ中途半端な選手だと思っているので、チームの一員としてしっかりとした意識を持っていないといけないと思います。監督からもかなり言われているので、もっと変えないといけないと思っているところです」
――2015シーズンはどのような1年にしたいと考えていますか?
「もっともっと、強くなりたいですよね。3冠を達成したからこそ注目されると思うし、それにふさわしい強さを示さなきゃいけないと思うので。チームとしては、この結果を継続的に出せるようにならないといけない。本当のビッグクラブになるために、昨シーズン以上の強さを示す必要があると思います」
――2014シーズンはガンバ大阪にとって新たなスタートということですよね。
「そうなるようにしたいですよね。J2に降格してしまったからこそ、それでも応援し続けてくれたサポーターに選手全員が感謝しています。やっぱり、降格するということは誰にとってもすごく大きなショックだと思うので、それでもずっと応援してくれた人たちに恩返ししたい。ファンやサポーターの力がなかったら、3冠なんてできなかったと本気で思いますし、何度でもこういう思いを味わいたいと思います」
――宇佐美選手にとって、今のこの時間は自身のキャリアにおけるどのような“位置”にあると思いますか?
「いや、まだまだ低いところにいると思います。ただ、ドイツで苦しい思いをして、J2から自分自身を作り直すことができたという意味では、これから上がっていくきっかけを作れたと思う。まだまだ高いところに登らなきゃいけないので、ここからが勝負やと思いますね」