ジャイアントキリングはキセキじゃない。松本山雅を躍進に導く反町康治のジャイキリ哲学

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文=河治良幸

 反町康治監督が就任して3年でJ1に昇格し、開幕戦ではアウェーの豊田スタジアムで強豪の名古屋グランパスと3-3の激戦を演じた松本山雅FC。第2節は2012年と13年の王者であるサンフレッチェ広島をホームのアルウィンに迎える。

 3月14日に発売の『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)ではジャイアントキリングの象徴的なクラブとして松本山雅をフォーカスし、本格的にプロクラブを目指してから10年間でJ1に上り詰めた松本山雅の道のりを分析的に振り返っている。

 その中で、松本山雅をプロのチームとして大きく成長させた反町監督がチームのベースを作りながら、どういうスタンスで対戦相手を分析して試合に備えているのか。「全ての相手がジャイアントキリング」と自負する気鋭の指揮官に筆者が独占取材したインタビューを本書より一部抜粋で紹介する。

 ここから広島戦、さらに清水エスパルス、浦和レッズとJ1の常連チームに挑む戦いが続く中で、彼らがどう戦い、ジャイアントキリングを狙うのかが、反町監督のスタンスを通してイメージしやすくなるはずだ。

――反町監督は対戦相手の映像をかなり見続けたということですが、就任当時の基礎的な部分を作っている頃から対戦相手のことはかなり分析していたんですか?

反町監督 今は2試合ぐらいだけど、前倒しで3試合ぐらい見て、例えばシーズンが始まって試合だとしたら3試合は見る。あとの7試合はハイライトみたいに特徴的な攻撃などを編集したもの。それをピックアップしていれば向こうが何をしたいか、どういう選手がいてどういう特徴を持っているかは分かるよ。

――『ジャイアントキリング』というサッカー漫画で、主人公の監督が徹夜で映像を見続けるシーンがあります。海外ではアルゼンチン人のマルセロ・ビエルサ監督が思い当たりますが、反町さんにも通じる部分がある。対戦相手を徹底的に分析することはチームが勝つためにやってきたという自負がありますか?

反町監督 勝負は細かいところに宿っているので、細かいところをどう押さえられるかが大事なんだよね。それはほんの5秒かもしれないけど、その5秒をしっかり押さえられるか。それがほとんど半分ぐらいならいいけど、絶対にここだけはやられちゃいけないというところだけをピックアップして話すから。いろんなところをあげて話すと選手はすぐ前に言ったことが頭から抜けてしまう。だから試合の前の日に話して、当日にも話す。

 相手のストロングなところは。それでしっかり整理するようにはしているけど。映像を使ったり、パワーポイントを使ったり、手書きだったり。英語だと“クイック・アンド・シンプル・トゥ・ザ・ポイント”って言うけれど、選手に教える相手の特徴や注意点は、攻撃も守備もそれぞれ多くて3つかな。あとはセットプレー。それで例えば言われた通りこうしてくるなって分かったら、自分たちのメインのチーム戦術に相手のゲーム戦術を加えるわけだから、しっかり整理してやれるやつはやれるようになるよね。

 働いている選手でも個人戦術を持っているのは大前提で、でも足りないなと思って1対1とかちょっと増やしたけれど。あとはグループ戦術、チーム戦術、相手がどう来るかというゲーム戦術。簡単に言うとサッカーは個人戦術、グループ戦術、チーム戦術、ゲーム戦術の4つしかないから、それをどう組み立てるか。時間が無いから個人戦術やグループは1年目はやったけど2年目からは全くやらないし、2年目からはチーム戦術を知っている選手もいるので、そこにかなり時間を割いてお互いの連係とか、このメンバーは噛み合わせがいいとかいうところをやってきたよね。

――対戦相手が強くなると攻撃、守備、セットプレーでポイントが飽和するぐらい押さえないといけない、意識しないといけないところが多くて、ジレンマになったりしませんか?

反町監督 それは多いよ。多いけど、例えば向こうの選手の特徴を話す場合に遠藤(保仁)の特徴を話しても、みんな知っているわけだよ。結局ゴールに関与する、いわゆるゴールゲッターをどう抑えるか、オフとオンの動きをどうするか。その割合がどうなのか。例えば大黒(将志)みたいにボールを持ったら逃げるのか、ボールを持ったら必ず斜めに入るのか、もしかしたら1回必ずチェックの動きをして入るとか、そういうところを注意して見るしかない。何試合か見ていると必ず見えてくるから。こっち側のボールの時は大黒が逃げるよ、というのがだいたい分かってくるから。そうすると、ここで裏を取られてやられたら俺の責任だと。でも前でやられたらお前の責任だぞという。言い方の問題かな。あとは。ヤマをかけないと止められない時があるから。例えばメッシがボールを持った時に、絶対に左足で連続3回ぐらいボールを触るなと。それで右足でシュートを打たれたら俺の責任だと。どこでもう割り切ってというか、腹をくくれるかどうか。自分たちより格上の強い相手だとしたら。

(こちらのコラムは書籍「サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない」から抜粋しております)

■書籍概要
書名:『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』
著者:河治良幸
発売日:2015年3月14日
定価:1,296円(税込)
発行:東邦出版

■著者プロフィール
河治良幸(かわじ・よしゆき)
『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)を刊行。サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、日本代表を担当。Jリーグから欧州リーグ、代表戦まで、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。セガのサッカーゲーム『WCCF』の開発に携わり、選手カードのプロフィールを手がけている。著書は他に『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『データ進化論』(ソル・メディア)など。

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