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「サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた」第4回 上野山信行さん(株式会社 ガンバ大阪)

2015.07.06

構成=山本剛央 写真=CORACAO 齊藤友也

将来、サッカー関係の仕事に就きたいと考えているけれど、どんな業種や職種があるのかよくわからない……。そんな疑問を抱いている人にぜひ読んでいただきたいのが、この連載『サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた』です。男子・女子サッカーの専門学校「JAPANサッカーカレッジ」の在校生がインタビュアーを務める企画で、今回はサッカービジネス科の学生、倉藤譲(くらふじ・ゆずる)さんが聞き手を務めました。

今回、お話をうかがったのは、Jリーグの名門、ガンバ大阪で取締役を務められている上野山信行(うえのやま・のぶゆき)さん。Jリーグクラブでのお仕事内容や、サッカークラブのアカデミーの現場で求められている人材などを教えてくれました。

仕事の内容を教えてもらえますか?

トップチームの編成、およびアカデミーの統括です。調整をする、方向づけをする、というのが主な役割で、社長のところに最終決裁が行く前に私がフィルターとなって様々な案件に目を通します。現在のガンバ大阪は大所帯です。フロントで働くクラブスタッフ、アカデミーで指導にあたるコーチングスタッフ、彼らとコミュニケーションを取る中で、ガンバ大阪としてのヴィジョン、考え方を示す、ということも私に求められている仕事になります。

現在の職業に就いた経緯を教えてください。

きっかけは釜本邦茂さんです。ガンバ大阪アカデミーの前身は、釜本さんが設立した釜本FCで、私も立ち上げに参加し指導者として働き始めました。1986年のことです。
私と釜本さんはヤンマーディーゼルサッカー部(セレッソ大阪の前身)出身。当時から釜本さんにお世話になっていて、私が現役を引退した際に「一緒にやらないか」と声を掛けてもらったんです。その後、1991年頃にJリーグ創設の話が浮上し、釜本さんがガンバ大阪の初代監督になることが決まった。Jリーグクラブの規定に「育成組織を持つこと」が義務づけられていたことから、釜本FCをガンバ大阪のアカデミーにする、と。その流れで私もガンバ大阪に来ることになりました。

子どもたちを指導する上で、大切なこととは?

恥ずかしながら、私がコーチ業をやり始めた頃は何も考えていませんでした。プレーのデモンストレーションを見せて、「こうだよ」と示すだけ。しかしながら、「プレーすること」と「教えること」は全くの別物です。歳を重ねることでそれに気づき、今では現場のコーチ陣に「人間として完璧であれ」と言っています。プレーヤーから「あなたの指導を受けたい」、「あなたの話を聞きたい」と思われるようになれ、と。

アカデミーのコーチングスタッフを統括する上で重視していることは何ですか?

ヴィジョン、目標、指導コンセプトを共有することですね。新年度がスタートする時期には、コーチングスタッフを集めて、それについて話をしています。言葉にして、方針、考え方を全員に共有する。そうすることで、指導の基本コンセプトがブレないようにしています。
現在のガンバ大阪にはユース、ジュニアユース、ジュニアと合計でおよそ1,800名のプレーヤーが在籍していますが、“ガンバ大阪としての哲学”を指導者に理解させ、プレーヤーにも浸透するように取り組んでいます。

学生時代に身に着けておくべき能力、習慣とは?

考える習慣、考え抜く習慣を持つことです。「なぜ?」というのを常に考え、自問自答する。社会に出た当初は私自身もそれを突き詰めて考えていませんでした。ですが、33歳の時、嫁さんと3カ月の子どもに気づかせてもらえたんです。ある日、子どもが夜泣きをしていて、私は「泣きやませてくれ」と叱るだけ。すると、嫁さんが言うんですね。「子どもは泣くのが仕事なのですよ」と。ハッとさせられました。「寝ろ」じゃなく、「ゆっくり寝なさいよ」と言う。何が違うのか。「愛情」だと嫁が言うんですね。これはまさに選手育成にも通じる部分じゃないかと、私の中で腑に落ちました。
だから、ピッチでも「ああしろ、こうしろ」とは言いません。ヒントを与えて、あとは子どもに自由にやらせてあげる。ただし、「止めて、蹴る」の基本を徹底させ、『世界のトップを目指す』という目的意識も常に持たせています。その中で、「じゃあ、どうすればいいの?」と一人ひとりに考えさせ、自由にやらせてみる。これが指導方針の根底にあります。

今、Jリーグクラブに求められているのは、どのような人材ですか?

自分で気づいて自分でどんどん成長していけるような人材だと思います。アカデミーの現場で言うと、自分で預かった選手を「どうすれば伸ばしていけるか」を常に考えられる人です。選手が伸びないのは選手のせいではない。指導内容の問題だと考えられるスタッフが求められています。指導することが目的ではない。選手を伸ばすことが目的なんです。その目的を理解して、毎日のトレーニングの中で自分で改善点を見つけていく。それができれば、自然と成果は出ますよ。

育成の現場で、やりがいを感じる部分はどういうところでしょうか?

やはり子どもたちが成長していくところを見るのは楽しいですね。サッカーだけではなく、一人の人間として成長していきますから。指導する立場の責任は大きいですが、とてもやりがいはあります。大きく捉えると、人を育てることは、日本社会を良くしていくことにつながります。いい日本人を育てていくことで、サッカー界、ひいては日本社会に貢献できるという考えです。何かを変えて社会を良くしていくのは、人ですからね。


サッカーの仕事を直接教えてくれた人
上野山信行(うえのやま・のぶゆき)さん

摂津高校卒業後、日本サッカーリーグ(当時)のヤンマーディーゼルサッカー部に加入。主にセンターバックとして活躍し1986年までプレー。現役引退後は釜本FCで指導者の道を歩み始め、Jリーグ誕生を機にガンバ大阪へ。92年から96年までガンバ大阪ユース監督として“育成大国ガンバ”の礎を築き、宮本恒靖や稲本潤一らを指導。その後、育成担当部長や育成・普及部長を歴任し、現在は強化本部、アカデミー本部の立場からクラブ経営に携わる。

サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた
・「視聴者から反響があった時は本当にうれしい」第1回 岡 光徳さん(テレビ朝日 GetSports)
・「サッカーの仕事を始めたきっかけは、日本サッカー協会への出向」 第2回 松本健一郎さん(西鉄旅行株式会社)
・「サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた」 第3回 山崎祐仁さん(株式会社 ニューバランス ジャパン)

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