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【独占インタビュー】日本サッカーを語る宮本恒靖氏「意識から変えていかないといけない」

2015.07.22

インタビュー・文=高尾太恵子

 日本サッカー界きっての知性派・宮本恒靖氏は、インタビュー中に何度も「意識」という言葉を口にした。考え方を変えることで、日本はもっと強く、もっと豊かになる――。

 宮本氏が鋭く、かつ愛情深く、日本サッカーについて語る。

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女子サッカーを“一過性のブーム”で終わらせないためには、斬新なアイデアが必要

――まず、なでしこジャパンについてお聞かせください。先日行われたFIFA女子ワールドカップカナダ2015では決勝でアメリカ女子代表に敗れ、残念ながら連覇を逃しました。

宮本恒靖(以下、宮本) 2大会連続でファイナリストになるのは素晴らしいと思います。初戦のスイス戦はなかなか攻撃のテンポが上がらずに、不安を覚えるようなスタートでした。しかし、試合を重ねるごとにパスワークが良くなり、守備の連動性も生まれてきました。やはり勝ち上がっていくチームは、大会中に調子を上げていくものです。なでしこジャパンにもそれが見られました。もちろん決勝トーナメントの対戦相手に恵まれたこともあるでしょう。決勝までドイツやフランスと当たる可能性がなかったので、運も持ち合わせていたと思います。W杯のような大きな大会は運もないと勝てませんからね。

――大会期間中にも取り上げられましたが、なでしこジャパンにはいまだプロ契約を結んでいない選手が多いのが現状です。女子サッカーにはどのような改革が必要だと思われますか?

宮本 そうですね……難しい問題ですね。露出は増えていると思うんです。でも、“一過性のブーム”から抜け出せない部分がある。女子サッカーが人を引きつけることができるというのはこの2大会で証明されていますし、なでしこにはすごく好感を持てますよね。ここからいかに売り込んでいくかが大事なポイントです。なでしこリーグ全体に資金が回る仕組みがないと最初は難しいと思います。以前、なでしこジャパンのある選手が「W杯で優勝したときにブームがきたけれど、また下火になっている」と言っていました。僕もそれを感じています。

――人気を持続させるアイデアが必要なんですね。

宮本 運営サイドがもう少しトータルに考えていかないといけない。例えば、INAC神戸には27名の登録選手がいて、いい選手が揃っています。そこでINAC神戸の選手をいろんなクラブに散らばらせてみるような、斬新なアイデアがあっても良いと思いますけどね。まずはなでしこリーグの魅力を知ってもらうことが大切です。

――日本と比べて、ヨーロッパは女子サッカーが盛んな気がします。

宮本 確かにヨーロッパでは根付いていますね。ドイツには昔から女子サッカーがあるし、それ以前にサッカー自体の文化があります。これが日本との一番の差だと思いますね。資金が回るシステムも確立されています。一方でアメリカはサッカーがスポーツビジネスとして成り立っている。競技人口も多いですし、そういう規模で見るとJリーグもまだまだだと思いますね。

――時間は掛かるかもしれないですけど、日本にも女子サッカーが根付いてほしいですね。

宮本 そうですね。今は小さい女の子がサッカーをやる姿を見る機会が増えましたけれど、大人になってボールに触れる女性が増えてもいいと思うんですよ。選手に限らず、サッカーファミリーがどんどん増えることが重要です。女子サッカーだけではなく、男子サッカーも、もっともっと文化にしていく必要があると思います。

三冠王者・ガンバ大阪のプライド…「意識」が一番変わった

――では、男子サッカーについてお聞きします。8月1日からFAFF東アジアカップ2015が開幕します。予備登録メンバー50名には、古巣のガンバ大阪から最多8名が選出されましたが、選手と何かお話されましたか?

宮本 まだメンバー発表の前でしたけど、大森晃太郎と話しました。そのときは「本当に選ばれたい!」と意気込んでいましたよ。最近は「お前、バックアップやろ?」と冗談で周りに言われることが多いみたいで、「ネタにされているから嫌だ」と躍起になっていました(笑)。まあ、選手にとっては大きなチャンスですし、予備登録の50名であっても、名前が挙がることで選手自身の意識は変わると思います。

――チーム内に8名もいたら、様々な効果が期待できるのでは?

宮本 良い刺激にもなるし、「自分たちは強いんだ」という自信にもつながります。さらに「あいつが選ばれているんなら俺も!」というモチベーションアップにもつながりますね。

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――ガンバ大阪は1stステージを4位で折り返しました。2ndステージに向けて勢いが増すのではないでしょうか?

宮本 もちろんそれはあると思いますが、何より昨年3冠を取っているというプライドがありますからね。その部分の意識が一番変わったと感じています。

――具体的にどこが変わったのでしょうか?

宮本 どの試合でもどういう勝ち方をするか、がスタートになっているようです。また悪い時間帯があっても、いずれ自分たちに流れがくることを信じて我慢できるようになりました。それはタイトルを手にしたことによる自信だと思いますね。

アジア諸国との差が確実に縮まっている今、意識改革がレベルアップに繋がる

――続いて、A代表についても聞かせてください。6月16日に行われたロシアW杯アジア二次予選のシンガポール戦は、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督体制下で3連勝して臨んだ初の公式戦でした(0-0で引き分け)。

宮本 シンガポールも力をつけてきたという印象です。ドイツ人の監督が就任し、すごく組織立った守備をしてきました。1トップの選手はファウルをもらうのが上手く、戦略的にすごく長けていたと思います。

――宮本さんは現役時代にアジアと戦う難しさを感じていましたか?

宮本 感じていましたね。相手が引いてしまって、こじ開けないといけない難しさがありました。それに予選であれ、W杯という名前のついた大会の初戦はナーバスになるものです。またシンガポールのように、アジア諸国が少しずつ良い指導者を呼んで、力をつけてきているのは間違いないと思います。

――日本とアジア諸国の差は確実に縮まってきていると?

宮本 はい。いろんな国が経済的に豊かになって、サッカーの強化にも資金を投入できるようになってきました。日本が各年代別で世界大会に出場できないことも、今後は大きな課題となってくるかもしれません。

――確かにA代表のアジアカップを含め、各世代においてアジアでベスト8止まりという結果が続いています。

宮本 それでもA代表に関して言えば、今いるメンバーは経験もありますから。W杯予選を戦ったことのある選手もいるので大丈夫でしょう。いずれ調子が上がってくるはずです。あとはそこに続く柴崎岳や宇佐美貴史、武藤嘉紀あたりがもっと自分を出していってほしい。もっと主力になってやるという決意を持って、臨んでもらえればと思います。

――武藤選手はマインツへ移籍しました。海外に挑戦しながら日本代表と両立しなければならない難しさもあるかと思います。

宮本 もちろんプレッシャーはあるだろうし、代表に選ばれたら日本へ帰ってきてプレーをしなければならない難しさも出てきます。でも、そういう負荷は選手を育ててくれるはずです。もっと大きくなれるチャンスだと思いますよ。まだ23歳なので伸びしろは十分にあると思いますし、楽しんでやってもらいたいですね。僕自身も彼の成長を楽しみにしています。

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――今回、東アジアカップに臨むメンバーは国内組が中心です。ここでいかにアピールするかがポイントになってくると思いますが、宮本さんはどういうプレーを期待していますか?

宮本 まず若い選手が点を取ることですかね。今季から再びステージ制に移行したように、Jリーグは転換期にきていると思うんですよ。彼らが代表で点を取ったり、活躍することで、スタジアムにファンやサポーターが足を運んでくれるような相乗効果が生まれる。なでしこジャパンの宮間あや選手は、「なでしこの活躍次第で、女子サッカーのレベルが決まる」と言っていました。彼女のようにJリーグで戦っている選手自身がもっと責任感を持って東アジアカップに臨んでくれたらと思っています。「自分たちがJリーグを変えるんだ!」くらいの気概が残念ながら今は見られない。ぜひJリーグ全体を引っ張ってくれるような選手が出てきてほしいですね。

――もう少し闘志をむき出しにしてほしい?

宮本 闘志というか……“ギラギラ”したもの。例えば、槙野(智章)は自分の考えを口にしていますし、最近は柴崎も発言する場面が増えてきたと感じています。自分たちが変えていくという意識を持たないと、Jリーグのレベルがこれ以上上がることはないと思っています。今はアジアでも他の国のほうが給料も高くて、良い選手が集まってくるんです。僕は意識から変えていかないといけないと思っているので、選手たちもそういう視点からリーグ戦を考えてもらいたい。東アジアカップにしても、タイトルを守らないといけない、という気持ちを持って戦ってほしい。まずは、Jリーグで“ギラギラ”したプレーを見せてほしいです。

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