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「サッカー愛とビジネススキルを兼ね備えた人材」が求められている 第5回 幸野健一さん(アーセナルサッカースクール市川)

2015.08.10

構成=波多野友子 写真=兼子愼一郎

将来、サッカー関係の仕事に就きたいと考えているけれど、どんな業種や職種があるのかよくわからない……。そんな疑問を抱いている人にぜひ読んでいただきたいのが、この連載『サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた』です。

今回インタビュアーを務めたのは長谷川宗一郎(はせがわ・そういちろう)さん。男子・女子サッカーの専門学校「JAPANサッカーカレッジ」のサッカービジネス科2年生で、卒業後はサッカーに携わる仕事をしたいと考えています。
今回は、2014年4月より「アーセナルサッカースクール市川」の代表を務めている、サッカー・コンサルタントの幸野健一(こうの・けんいち)さんにお話を伺いました。サッカー界の様々なビジネスに携わってきた幸野さんが語る、新たなサッカービジネスの具体例や、サッカー業界で求められる人材についてのアドバイスは、まさに必読です。

現在の仕事を始めた経緯を教えてください。

僕はもともと広告代理店を経営していたんです。創業者の父ともどもサッカー好きだったこともあり、ビジネスの一環としてサッカーにも多くかかわってきました。2002年ワールドカップ招致委員会の案件では、青森県の招致活動としてペレを招き、サッカー教室を運営したりもしましたね。

そんなふうに長年サッカー事業に携わる中で、様々な課題が見えてきたんです。日本サッカーって、FIFAランキングではまだ50位ですよね。そこには総人口に対するサッカー人口の少なさや、サッカー場の不足など、多くの原因が絡み合っている。だから、少しでも課題解決の一助になりたいと思い、2013年の夏にサッカー以外の仕事から身を引いて「サッカー・コンサルタント」として生きる道を選びました。

「サッカー・コンサルタント」とは、具体的にどんな仕事なのですか?

その名のとおりクラブに向けてコンサルティングを行ったり、サッカー関連の会社のアドバイザーや顧問を務めたりしています。時には、選手個人のセカンドキャリアの相談に乗ったり、代理人のような役目をしたりすることもありますよ。

実は「サッカー・コンサルタント」と名乗るのは、日本では恐らく僕が初めてなんです。だから、今は走りながら形をつくっているような状況ですね。この仕事をする上では、自分の考えをできるだけ広く発信して、共感してくれる人を増やすことを重視しています。実際に名乗ったことで、2014年に立ち上げたアーセナルサッカースクール市川の運営のような、ビジネスとして成立する相談が続々と寄せられるようになりました。

アーセナルサッカースクール市川の、ビジネス面での特徴は?

このスクールは「PFI〜Private Finance Initiative〜(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)」という仕組みで経営されています。具体的に説明すると、まず市川市から有償で休閑地を借りて、ファンドという形で資金を募りクラブハウスとサッカー場をつくりました。次に一般社団法人・市川スポーツクラブを立ち上げてスクールの管理・運営を行い、僕が代表を務めるアーセナルサッカースクールへ業務委託として仕事を渡すという形をつくったんです。

市は土地の使用料で利益を得て、僕らは民間の企業として利益を上げ、さらには市民、つまりスクールに通う300人の子どもたちは、恵まれた人工芝のピッチでサッカーを楽しむことができる。みんながハッピーになれるこの仕組みを、スポーツ施設としては恐らく初めて導入しました。

なぜアーセナルとの契約を決めたのですか?

アーセナル側が日本進出に強い意欲を持っていたところに、僕たちのビジネス計画が合致し、とんとん拍子に事が進んだという経緯があります。ビジネス面でも、そこまでお金を掛けずにいい補強をして選手を育成するという点で、共感できる部分がありました。

また、僕自身がアーセナルというチームに思い入れがあったんです。というのも、僕は17歳の時にプロサッカー選手を目指し渡英した経験があり、それ以来アーセナルのサッカーに魅了されてしまったんですよ。

サッカー界で交友関係が広い幸野さんですが、人脈をつくるために日頃意識していることは?

「迷ったら人と違う道を行く」ということでしょうか。多くの人が左に行くなら、僕は右に行くんです。もちろんそれは大変な道なのですが、これまでにない新しい分野にチャレンジしてもがき苦しんでいる姿というのは、必ず誰かの目に留まるものです。苦しくてもチャレンジし続けて、その分野の第一人者、先駆者になれば、自然と人は集まってくるものだと思いますね。サッカー・コンサルタント第一号になった僕が今こうして取材を受けているのも、その証拠かもしれません。

サッカービジネスに携わるなかで、やりがいを感じる瞬間を教えてください。

アーセナルサッカースクール市川を訪れる子どもたちや、その家族の笑顔を見た時ですね。実はこのグラウンドが完成する前から、200人もの生徒が入学してくれていたんです。そして去年の4月13日、オープンとともに子どもたちが一斉にピッチになだれ込んできて……。大喜びする子どもたちの姿を見たとき、自分の行動ひとつで、こんなにも人を幸せにできるんだと実感しました。これまで自分がサッカーを通じて得てきたものを、これからは社会に還元していきたいですね。

学生時代に取り組んできて、今の仕事に役立っていることは?

大学時代にマーケティングを専攻していたんですが、その考え方は今でも非常に役立っています。マーケティングとは市場調査だけではなく、実は「モヤモヤしたものの筋道をハッキリさせるための手法」でもあるんです。

例えば、自分の目指す業界がこれから進もうとしている方向に対して、自分の強みの中で通用するものは何なのか? これを書き出すことで、頭が整理されていきますよね。すると、漠然と思っていたことを「強く思うこと」に変えていける。それがその後のモチベーションや、自分がぶれないための指針として役立っていくんです。こういったマーケティングの考え方は、どんな分野でも強みになるので、学生のうちに勉強しておくといいと思います。

これからのサッカービジネス界に求められる人材とは?

僕は、サッカー界で仕事がしたいと言ってくる学生には「最初からサッカー界には来るな」とアドバイスしています。というのも、サッカー界はまだまだ市場規模が小さく、特に人材育成などの面では覚束ない部分があるからです。

そういう意味で、サッカー以外の業界である程度ビジネススキルを身につけてきた人が強いと思います。もちろん本当にサッカーが好きで、日本のサッカー界が高みを目指すため力になりたいという強い気持ちがなければ難しい仕事です。つまり、「サッカー愛とビジネススキルを兼ね備えた人材」が求められているということですね。


サッカーの仕事を直接教えてくれた人
幸野健一さん(こうの・けんいち)さん

広告代理店の経営者を経て、2013年よりサッカー・コンサルタントとして活動を開始。2014年4月「アーセナルサッカースクール市川」を開校させ、代表に就任した。「僕自身43年間サッカーをプレーし、年間50試合、通算2000試合に出場してきました。ビジネス面だけではなく、僕がサッカーから得たものは数え切れません。これからは“ノブレスオブリージュ”の精神で、社会に還元していきたいですね」と話す。長男の幸野志有人さんは、現在FC東京でJリーガーとして活躍している。
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サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた
・「視聴者から反響があった時は本当にうれしい」第1回 岡 光徳さん(テレビ朝日 GetSports)
・「サッカーの仕事を始めたきっかけは、日本サッカー協会への出向」 第2回 松本健一郎さん(西鉄旅行株式会社)
・「サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた」 第3回 山崎祐仁さん(株式会社 ニューバランス ジャパン)
・「サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた」第4回 上野山信行さん(株式会社 ガンバ大阪)

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