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育成年代の改革こそが日本サッカー強化のカギ「U-12で勝てなければ世界とは戦えない」

2016.01.05


写真:小林浩一 提供:サッカーキング・アカデミー

2014年に行われたブラジル・ワールドカップにおいて、グループリーグで1分2敗と1勝も挙げることができずに敗退した日本代表。再出発を誓って臨んだ今年1月のアジアカップでは、ベスト8で早々に姿を消し、先の東アジアカップでも最下位で同大会を終えた。また、2014年9月に行われたAFC U-16選手権タイ2014では、準々決勝で韓国代表に敗戦し、5大会ぶりにU-17ワールドカップへの出場権を逃す結果に。10月のAFC U-19選手権でも、世界への切符を勝ち取ることができなかった。

『若手の底上げ』や『育成』の必要性が叫ばれる中、浜田満氏もジュニアユース世代(U-12)の重要性を説く一人。株式会社Amazing Sports Lab Japanの代表取締役を務める浜田氏は、日本におけるバルセロナのファンクラブの代理窓口の開設をはじめ、キャンプやスクール、U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジなどを開催。2004年に同社を設立して以降、海外と日本、双方のサッカーを見据えながら、ビジネスと育成の両面を成立させてきた。

そんな浜田氏が、これまで手がけてきた事業の考え方やノウハウを扱った「サッカービジネスプロフェッショナル養成講座」を実施。講座開設にあたり、自身の育成に対する見解を語るとともに、世界との差を縮める方法やその仕組みについて言及し、独自の“育成改革論”を展開した。

<第1回>『自らたぐり寄せたバルサとの契約「20代で圧倒的な地位に立ちたかった」』


――育成について、お聞きします。浜田さんは、よく「日本と世界の差」について言及されます。「ヨーロッパはこうだ」という言い方は、時に波風が立つこともあると思います。それでも、あえて発信しているのでしょうか?

浜田満 そうですね。僕だってできることなら日本独自で考えたサッカー理論で世界に勝ちたいと思っています。でも、正直、自己流でやっても世界で勝てないじゃないですか。勝ったことのない人が、意地はって、自己流で突っ走っても永遠に勝てないですよ。例えば、今の2倍のスピードで学んでも、それが間違ったことであれば、間違いに2倍のスピードでたどり着くだけです。世界で勝てる可能性があるとすれば、まず欧州の最先端のサッカーの原理原則を学び、徹底的に真似し、自分のものにしていく過程で、日本の特徴を生かした独自のサッカーを追及し、発展させた場合だと思うんです。ベースが全くないのに、「自分たちには自分たちのやり方がある」と言っても絶対に勝てないと思います。

――日本が世界と差を埋める方法としてはどうお考えですか?

浜田満 現状では、日本のサッカーの進歩のスピードよりも、欧州サッカーの進歩のスピードの方が断然に早いですから、正直差を埋めていくのは相当難易度が高いと考えています。
というのも、選手の育成、強化という部分でいうと、どれだけの予算を投下できるかが勝負なんです。 例えば、FCバルセロナの年間予算は700億円ぐらいだと思いますが、そのうち育成部門には年間14億円ぐらいを投下しています。日本の場合だと例えば、浦和レッズで年間予算が60億弱で、育成部門には年間1億ぐらいを投下しています。予算規模で欧州のトップクラブの10分の1しかないチームが欧州トップのクラブとまともに戦えるわけがない。でも、同じ土俵には立たなければならない。だから、少し視点を変える必要があると思っています。

具体的にいうと、「ランチェスターの法則」というマーケティング戦略の法則があります。
その中で弱者の戦略というものがあるのですが、弱者は事業領域を細分化し、勝ち易い地域、流通、顧客、商品を設定し、そこに経営資源を重点投入し、一点集中主義で戦い、あるカテゴリーで勝利したら、次のカテゴリーにうつるという戦略があります。

日本はサッカーの世界でいうと、「弱者」なので、この法則にあてはめると、どこに資源を多く投入したらいいかというとU-12(4種)までなんです。今は一番予算がつけられていないカテゴリーだと思いますが、ここに大きく予算を投下するんです。当然、それでも世界のトップと比べると予算の差はありますが、トップチームのように10倍ほど差はつかず、予算レベルでは、かなり世界のトップと近づけられると思います。「ランチェスターの法則」で言うと、1つのカテゴリーでナンバーワンになれば、次のカテゴリーに進むことができるので、U-12で欧州と互角に戦えるようになったら、その次のU-15で勝負すると。U-12で勝った経験のある選手たちがそのまま上に上がりますから、U-15でも戦えると思うんです。そうやって下から一つずつ勝っていかないと、世界に勝つことはできない。育成の領域を細分化して、下から一つ一つ潰していくしかないんですよ。時間はかかります。そういった予算の分け方をしてから10年は我慢しないといけないでしょう。

――かなりマクロな視点で、育成を捉えられていますね。日本サッカーの育成年代にお金が入ってくる仕組みを作りたいということで、それを協会などではなく一企業としてやられていますが、そこにはどのような意図があるのですか?

浜田満 どうして1企業としてやっているかといえば、それは僕はサッカー協会の人間ではないけれど、彼らと同じように、僕も日本サッカーを強くしたいからです。そして、日本サッカーを強くするには、日本サッカー界にお金が入ってくる仕組みを作る方法だと思っています。いくつか方法があると思います。一つは外資の参入を全面的に受け入れる方法。そしてもう一つが、弊社が取り組んでいることですが、世界のトップになれる選手を人為的に育成することです。メッシやネイマールクラスの選手が日本から出てくれば日本サッカー界で動くお金が圧倒的に増えると思うんです。お金を生み出すのは選手なんですよ。トップレベルの選手が何人か出れば、当然サッカーのマーケットで動くお金も増える。そういったことにより、サッカー界の絶対的な予算ボリュームをあげる必要があります。

――では、チーム、地域、年代という括りではなく、結果的には一人の選手を育てるということなんですね。

浜田満 はい。良い選手を何人作れるかですね。そのためには仕組みが必要になってきます。世界でトップレベルの選手を作ろうと思ったら、中学校からじゃ遅いんですよ。小学校1~3年生くらいから育てていかないと無理なので、それを僕らで作ると。それが結果につながれば、その動きが広がっていくはずです。

――ある一人の選手が、マーケットにお金をもたらすということですね。

浜田満 今、日本にメッシがいたら、全然状況は違うと思いますよ。たった一人で何十億も稼ぐ選手がいたら、一気にいろんなものが動くでしょう。だから、世界のトップになれる選手をいかに作るかが肝なのです。でも、その選手を作る仕組みが日本にはまだない。

――人を育てるというのは、スポーツにおいては直接指導しないといけないと思います。そうすると、スケールさせる方法って非常に地道ですよね。一人ひとりと接する人数を増やしていくしかないですから。日本全国に広げる、アジア展開するなど、大きくさせていくには長い時間がかかりそうですね。

浜田満 そうですね。僕らは「ビジネスと成立させる形を保ちながら、別の予算で育てる」ということをやっています。良い選手がいたとして、「トップレベルの選手に育てよう」と思っても、その選手を相手にビジネスをしては本末転倒なので、金銭は発生させないわけです。でも、どこかからお金を引っ張ってこないといけませんから、仕組みがまわるための事業をたくさん作っているということです。

――育成ノウハウのフランチャイズ化のようなことは、考えないんですか?

浜田満 それは考えていません。選手の育成というのは片手間でできることではないんです。必ず我々の目で見る必要があるからです。また、普段は選手が所属するチームがやっているわけですから。僕たちは裏方であり、選手たちが普段のトレーニングや試合でいいパフォーマンスが発揮できるようなサポートだったり、個人戦術面のレベルの向上だったり、メンタル面でのサポートだったり、やっていることは多岐にわたります。その中でも特に重要なのは、海外のコーチとのコミュニケーションかもしれません。当然のことですが、欧州の最先端の理論って、欧州にいないと分からないんですよ。日本にいながら、欧州の最先端の理論を日本でやろうとしても、それはもう過去の理論になっていることが多い。日本でバルサのポゼッションサッカーをやり出した頃、向こうではもう次のことをやっていました。バルサキャンプをやっていても、5年前のメニューと今のメニューは全然違いますからね。僕らがやっている間に、向こうではもうちょっと先のことが研究されています。日本のバルサキャンプはそういったトレーニングメニューなどは導入されるのが早い方だと思います。
そういった指導者とのコミュニケーションなどを含めても、フランチャイズ化なんてとてもじゃないけど、できるとは思えません。

――今後も育成には軸足を置いてやっていかれるのですか?

浜田満 そうですね。アカデミーを作りたいんです。これまで出会った中で本当に良いと思うコーチが何人かいるのですが、彼らを集めて、ジュニア、ジュニアユース、ユースとアカデミーを作りたいですね。でも、本当は、日本でバルサのカンテラそのものを作りたいです。18歳になった時に、良い選手はバルサのテストを受けられるような形が作れたら最高ですね。

By サッカーキング編集部

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