2015-16シーズンが開幕して約1カ月が経過。チャンピオンズリーグも本戦が始まり、ヨーロッパ各国リーグの戦いも本格的にスタートしました。
『サッカーキング』では4大リーグから10チームをピックアップし、夏の補強やここまでの戦略を分析。さらに少し気が早いですが今シーズンの達成目標までを考察し、毎日1チーム、10日間にわたり連載形式で「2015-16シーズン序盤戦通信簿 欧州10大クラブを徹底検証」をお届けします。
最終回は、昨シーズンのCL準優勝クラブであり、国内2冠に輝いたユヴェントスです。主力の退団により大きく顔ぶれが変わり、調子の波に乗り切れていない新生“ビアンコネーリ”の現状を分析します。
ユヴェントス
文=清水遼
基本フォーメーション
夏の戦力補強評価
採点…2(5点満点)
エースのカルロス・テベスや、中盤の要だったアルトゥーロ・ビダルとアンドレア・ピルロら主力選手が退団し、スタメンの顔ぶれが大きく様変わりした。夏の移籍市場では序盤から積極補強に出ると、6月上旬にはパウロ・ディバラやサミ・ケディラを獲得。着実に戦力の上積みが進んでいるかに思われたが、7月は獲得が既定路線だったシモーネ・ザザと控えGKネトの加入にとどまり、以前から補強ポイントとして指摘されていたアンカーとトップ下の確保は難航した。プレシーズンの段階から中盤に負傷者が続出すると、セリエA開幕からの2試合ではユーティリティープレーヤーのシモーネ・パドインをアンカーで起用せざるを得ない危機的状態に陥り、移籍市場最終日に2名を“補充”するのがやっとだった。
長らく中盤の補強候補として名前が挙がっていたユリアン・ドラクスラーをヴォルフスブルクにかっさらわれ、8月31日の移籍マーケット閉幕日に獲得したのはエルナネスとマリオ・レミナ。両者とも決して悪い補強ではなかったが、期待値が高かっただけにファンの期待を裏切る格好になってしまった。“1億ユーロの男”ポール・ポグバの慰留に成功したことや、チェルシーで構想外になっていたフアン・クアドラードをイタリアに連れ戻したことで最低点は免れたが、総合的に判断すれば2点という厳しい評価を下さざるを得ない。
新戦力のここまでの評価
クラブやサポーターからもっとも期待を受けて入団したディバラは、ここまで公式戦6試合に出場して3ゴールを決めている。結果こそ残しているようにも見えるが、内訳はスーペルコッパ・イタリアでのボレーシュートを除くと、ローマ戦でロベルト・ペレイラの完璧なお膳立てから押し込んだ1点と、クアドラードが獲得したPKによる得点。もちろんしっかりと結果を残すことはもっとも重要なことではあるが、現状のプレーはテベスの穴を埋める存在として不十分な印象だ。特に目立つのはフィジカル面での弱さ。ボールを受けて前を向く前に潰されてしまうケースが多く、得意であったはずのドリブル突破を自ら避けているようにも感じる。時折見せる決定的なラストパスや高精度のFK、華麗なボールテクニックなどポテンシャルは間違いないだけに、身体的な面でのさらなるレベルアップが求められる。
一方、早くも抜群の存在感を見せつけているのはクアドラード。レンタルでの獲得が決定した際には、「ウイングのポジションが存在しないのにどこで使うのか」、「金の無駄遣いだったんじゃないか」などとささやかれ、風当たりは強かったが、出場2試合目となったキエーヴォ戦では同点ゴールにつながるPKを獲得。さらにチャンピオンズリーグ初戦のマンチェスター・C戦でも得意のドリブル突破やアーリークロスで再三チャンスを演出し、崩しの局面で重要なタスクを任された。システムもクアドラードの起用に合わせて「4-3-3」に変更され、すでに攻撃の中核を担っている。ゴールという目に見える結果を残すことができれば、文句の付けどころがない補強になるだろう。
同じく、あまり望まれない状況下で入団したエルナネスにも合格点を与えたい。多くのメディアはトップ下の獲得候補として、バイエルンのマリオ・ゲッツェやチェルシーのオスカル、前述のドラクスラーなど多くのビッグネームを挙げていたが、結果としてやってきたのは30歳を迎え、因縁深いインテルでベンチを暖めていたブラジル人MFだった。2014年1月にインテル入団を果たした際にはユヴェントスを挑発するような発言をした過去もあり、今回の加入を歓迎しないサポーターも多かった。しかし、中盤に負傷者が続出したユヴェントスではトップ下やアンカーで起用され、得意の弾丸ミドルや献身的な守備を披露。ややボールを持ちすぎる癖こそあるが、キープ力とシンプルなパスで組み立てにも大きく貢献している。またピルロが去り、信頼できるプレースキッカーが不在となったなかで、貴重なセットプレーの得点源としても期待されている。
エルナネスと同じく最終日にマルセイユから加入したレミナは、これまで無名の存在でありながら早くもレギュラー争いに加わりそうだ。ポグバとともにフランスのU-20ワールドカップ優勝に貢献した22歳は、当時からユヴェントスのスカウティングリストに入っていたようで、今夏のプレシーズンマッチでマルセイユと対戦した際に改めてジュゼッペ・マロッタGM(ゼネラルマネジャー)の目にとまったという。アンカーとしてはボールを受けるポジション取りなど、まだまだ荒削りな面も多いが、フィジカルを生かしたボール奪取や、ジェノア戦の先制点につながったタテパスなど、才能の片りんを見せつつある。
その他、左サイドからの積極果敢な攻め上がりで攻撃に違いを作っているアレックス・サンドロや、得意の空中戦で強さを発揮しているマリオ・マンジュキッチなど、獲得した選手はどれも実力派ぞろい。ここまであまり多くの出場機会を得ていないダニエレ・ルガーニやシモーネ・ザザなど有望な選手も多く、実績十分なケディラも戦列復帰を控えている。
チームとしての注目ポイント・選手
攻撃面で昨シーズンともっとも違うのはテベスの不在だ。組み立てからチャンスメーク、フィニッシュまでを一人で担ってきたエースの代役を務められる選手は存在しないと言ってもいいだろう。代役として加わったマンジュキッチはゴール前で強さを発揮するタイプで、個人技による打開にはあまり期待できない。そこで、マッシミリアーノ・アッレグリ監督はよりサイド攻撃を重視した戦術への転換を図り、「4-3-3」のフォーメーションをベースにしようとしている。クアドラードやペレイラ、A・サンドロなどサイドを切り崩す駒はそろっていて、中央のマンジュキッチを生かすスタイルをしっかりと確立できるかがポイントだ。
個人の面でもっとも注目を浴びるのは、今シーズンから伝統の背番号10を背負うポグバ。昨シーズンまではテベスやビダルらがチームを引っ張ってきたが、彼らが抜けた今、ポグバに求められるのは安定してチームに結果をもたらすことだ。ここまでのポグバの戦いぶりは決して上出来とは言えない。圧倒的なボールテクニックで相手選手を手玉に取っていた昨シーズンに比べ、必要以上にボールを持ち過ぎてしまい、たびたび相手のカウンターの起点になっている。“10番”のプレッシャー故に気負いすぎている感があるのか、一人でもがき苦しんでいる状況だ。チームが調子を取り戻すためには、ポグバがよりシンプルでゴールに直結するプレーを見せることが必要不可欠となる。
チームとしての懸念点
スタートダッシュに失敗した最たる原因は負傷者の多さだろう。現在のチームが安定感を欠いているのは、黒子となって奔走していたクラウディオ・マルキージオの不在が大きく影響している。さらにプレシーズンマッチで負傷して公式戦の出場がないケディラや、前線で主軸となるはずのアルバロ・モラタも復帰と離脱を繰り返し、十分な戦力で戦うことができていない。これ以上離脱者が増えれば、各選手の“耐久性”だけでなくチームのトレーニング方針を疑わざるを得ない。
今シーズンのチーム始動はチャンピオンズリーグ決勝の影響もあってか7月16日と他のクラブに比べてやや遅く(同じくファイナルを戦ったバルセロナは7月13日)、セリエA開幕までにプレシーズンマッチ4試合とスーペルコッパ・イタリア1試合の合計5試合(バルセロナは合計8試合)を戦ったのみだった。8月8日のスーペルコッパでコンディションが上がりきっていないことは明白だったが、さらに問題なのはそこからリーグ開幕までの約2週間で1試合も対外試合を戦わなかったこと(毎年恒例となっているプリマヴェーラとの練習試合のみ)。結果としてコンディションに問題を抱えた選手が複数見られたことや、攻撃で噛み合わない場面が散見された。チームの屋台骨の退団は昨シーズン終了時点である程度予想できたはずだ。だからこそ、多くの新戦力が加わったプレシーズンはゆっくりと、十分に時間をかけるべきだったようにも思える。
それでも、昨シーズンまでのチームは内容が悪くても勝点を積み上げることができた。それはチームに確固たる自信が満ちあふれていたからだ。テベスやピルロは純粋な戦力としてだけでなく、メンタル面のサポートでもチームに貢献してきた。ポグバやモラタが十分な働きを見せられていないのは、それぞれのポジションで精神的支柱を失ったことに起因する。前監督のアントニオ・コンテによって植え付けられ、アッレグリが昇華させた“勝者のメンタリティ”を取り戻すことが不可欠だ。主将のジャンルイジ・ブッフォンやレオナルド・ボヌッチら4連覇を経験した選手たちが新戦力にそれを伝え、きっちりと勝負どころをわきまえることができれば、チームの建て直しを図るなかでも結果を残すことができるだろう。
また、以前からセットプレーの守り方を守備の弱点として指摘されてきたが、ファウルで取り消されたキエーヴォ戦、同点ゴールを奪われたフロジノーネ戦など、改めてその課題が浮き彫りになっている。決定力不足に悩まされる現在のチームにとって、セットプレーでの失点は致命傷になるため、早急な改善が必要となる。
シーズン最終目標・予想
第一の目標は歴代最多に並ぶセリエA5連覇だ。開幕からわずか5試合で2敗を喫し、厳しい状況に追い込まれてはいるが、5連勝と絶好調なインテルを除けば、強豪クラブはどこも一度はつまずいている。負傷者の復帰と新戦力への戦術の浸透、ポグバの復活などが上手く進めば、昨シーズンの調子を取り戻して“スクデット争い”に加わることも可能なはずだ。少なくともチャンピオンズリーグ出場権は絶対に確保しなくてはならない。
また、“死のグループ”と評されたチャンピオンズリーグでは、グループステージ初戦でプレミアリーグ開幕5連勝と圧倒的な強さを見せていたマンチェスター・Cを敵地で破ることに成功した。チームの根底にある大一番での勝負強さはまだ完全には失われていないはずで、決勝トーナメントに進出して勢いをつけることができれば、タイトル争いに加わることも不可能ではないはずだ。
By サッカーキング編集部
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