[ワールドサッカーキング11月号掲載]
夏には移籍情報が飛び交い、新シーズンが開幕してからも出場機会は限られている―。ネガティブな憶測ばかりが先行する中、アッピアーノ・ジェンティーレの練習場で目に飛び込んできたのは、意外にもチームメートの輪の中心でリラックスした笑顔を見せる長友佑都だった。軽快な動きを見れば、コンディションの良さは明らか。少人数で行った居残り練習ではロベルト・マンチーニ監督と一緒に朗らかにボールを蹴っている。そこには一連の報道で作り上げられた「かわいそう」な長友ではなく、ポジティブに現状と向き合う彼の姿があった。
インタビュー=八杉裕美子
写真=ファビオ・ボッツァーニ、ゲッティ イメージス
今はある意味、最高の経験をしている
まず始めに全体練習を拝見して、チーム内の雰囲気の良さを感じました。長友選手は中心になってチームを盛り上げていましたね。
長友佑都 中心になっていましたか?(笑)インテルのトレーニングは、戦術練習をする時はしっかり集中する、パス回しのような軽めの練習の時はみんなで楽しくやるというように、いつもメリハリが利いています。
「鳥かご」(3人以上の選手が円形を作り、円の中にいる「鬼役」の選手にボールを取られないようにパスをつなぐ練習)では華麗なボールさばきを披露されていましたね。
長友佑都 そうですかね(笑)。「鳥かご」のようなパス回しでは、股抜きを狙ったり、ヒールでパスをつないだり、トリッキーなプレーで「鬼」をあざむくのが共通認識としてありますから。いつも楽しくやっています。
長友選手が何回パスを回せているのか声を出してカウントしていたり、すごく楽しそうでした。
長友佑都 “声出し隊長”を買って出て、みんなを盛り上げたり、僕はそういうキャラで定着していますから(笑)。それにここには4年半もいて、同期入団した(アンドレア)ラノッキアとともにチームの最古参ですからね。誰か新戦力が入ってきたら、他のみんなから「ユウトはここに10年もいる大先輩だぞ!」って紹介される。そのフリに乗って僕も「10年もいる俺にリスペクトはないの?」っていうやり取りが最近のブームになっているんですよ(笑)。
練習後にはロベルト・マンチーニ監督を相手に、クロスの練習をされていましたね。
長友佑都 監督ともいい関係を築けています。居残り練習を含め、ここまで充実した練習ができていますね。それに、自分自身のコンディションもすごくいい。あとは試合に出た時に最高のパフォーマンスを発揮できるよう、日々の練習に精いっぱい取り組むだけですね。
プレシーズン中には本職のサイドバック以外に、中盤でもプレーしました。その時は、どういった思いでプレーしていたのですか?
長友佑都 サイドハーフや3ボランチの一角、それからトップ下でもプレーしました。経験の少ないポジションでプレーできたことは素直に楽しかったです。トップ下なんて普段は絶対にやらせてもらえませんから(笑)。中盤でのプレー経験を経て「前の選手がどんなタイミングで、どんなボールが欲しいのか」という気持ちをくみ取ることができたのも、すごく大きな経験になりました。
ここまでチームの好調とは対照的に、ご自身は出場機会が限られています。この現状をどう捉えていますか?
長友佑都 僕はこれまで、あまりにも順調にキャリアを歩んできて、インテルに加入してからの4年半も継続的に試合に出場することができました。ただ、今シーズンのように試合に出られない時期を経験しておくことも大事だと考えています。現役生活を送っていく以上、もちろん試合に出続けて活躍したいですが、人生は現役引退後のほうがずっと長い。僕自身、サッカーをする上でもっと苦労していかないと、人としても成長できないと思っています。だから今はある意味、最高の経験をしているんですよ。
出場機会が減少する中で、コンディション作りの方法も変わったかと思いますが、特に気をつけていることはありますか?
長友佑都 練習で誰よりも走ることと、練習後に別メニューをこなすこと。この2点です。とにかく今は自分のストロングポイントである走力の土台を作り直そうとトレーニングしています。昨シーズンはケガが多くて、満足にトレーニングができなかったですからね。それに試合に出続けていては、なかなかできないことですから。いい意味で走力の土台を見直すチャンスが来たと捉えています。
インテルは自分にとっての“家”
インテルに加入して6年目のシーズンを過ごしていますが、その中で感じてきたクラブの魅力とはどういった部分でしょうか?
長友佑都 たくさんありますが、ここは自分にとっての“家”という感覚が強いですね。練習場に来ると、すごく居心地が良くて、楽しい気持ちになるんです。チームメートだけではなく、ここで働くすべてのスタッフの方々といい関係を築けていますからね。
私たちがクラブハウスを訪れた際も、スタッフの皆さんが温かく迎えてくれました。
長友佑都 みんなが温かい雰囲気で包み込んでくれるし、とにかく最高の環境です。イタリアに帰って来て練習場に足を踏み入れると、何だかホッとしますね。
この夏は連日のように移籍の噂が報じられていましたが、最終的に残留を決断されたのは「クラブの温かさ」も決め手の一つになったのでしょうか?
長友佑都 そればかりは僕自身の意思だけでは決められない問題ですからね。結局、僕が今ここにいるということは、インテルと縁があったということです。僕は今いる場所で輝くための努力をするだけ。やるべきことはどこにいても変わりません。
ホームのサン・シーロも、独特の雰囲気がある素晴らしいスタジアムです。8万人規模のスタジアムでプレーするのはどんな感覚ですか?
長友佑都 もう長い間プレーしているので、慣れてしまっている部分もありますね(笑)。ただ、ファンの声援はすごい。それが後押しにつながることもあれば、正直、そうでない時もある……。ホームゲームだからといって、いつもホームらしく戦えるわけじゃないんです。インテルのサポーターは僕らに大きな期待を寄せてくれるがゆえに見方も厳しく、いい試合やいいパフォーマンスを見せられなければ、容赦なくブーイングをしてきます。そういう雰囲気になった時、本当に精神的にたくましくなければサン・シーロでは戦えない、と僕自身は感じています。
例えば、試合に勝ったとしても内容が悪ければブーイングされることもあるのですか?
長友佑都 もちろんあります。選手や監督にしてみれば、相当厳しい環境ですね。試合に勝ったとしても、個人のパフォーマンスが悪ければ、その個人が矢面に立たされますから。逆に、いいプレーには賛辞が送られますし、気持ち良くプレーできます。と言っても、インテリスタは長い歴史の中で偉大な選手を見てきた方々ばかりですから、本当に目が肥えている。当たり前のようにいいプレーを示さないと、インテルの選手として認めてはくれません。
長友選手が加入した2011年1月時点から現在に至るまで、メンバーの入れ替わりがとても激しかったように思います。この急激なチームの変化をどう捉えていますか?
長友佑都 僕がインテルに加入した時点では、09-10シーズンの3冠達成メンバーも多く在籍していましたが、その彼らはもう誰一人クラブにいない。加入当時のメンバーはラノッキアぐらいですからね。この夏はまたガラッとチームの編成が変わりましたが、ここまでは開幕5連勝と結果が出せていて、いい流れに乗れています。もっとも、結果に対して内容が伴っていない試合も多く、運を味方につけている感は否めない。今後は内容の部分でも勝利に値するような戦いを見せていく必要がありますね。
お話のとおり、この夏も数多くの新戦力が加わりました。その中で特に日本のファンに注目してほしいプレーヤーはいますか?
長友佑都 みんなすごい選手ばかりですけど、個人的に好きなのはフェリペ・メロですね。経験値の高さはもちろん、テクニックや冷静さもあって、常に試合の流れを読んでプレーしているのが伝わってくる。既にチームにとって欠かせないプレーヤーですね。
プライベートで食事に誘うチームメートや今後の目標、日本のファンへのメッセージなどを語った長友のインタビューの続きは、ワールドサッカーキング11月号でチェック!
By サッカーキング編集部
サッカー総合情報サイト