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現横浜FM社長がスポーツ業界を目指す学生に提言「憧れだけでは通用しない」/連載最終回

2015.11.04

日産時代にカルロス・ゴーン氏が指揮した「日産リバイバルプラン」策定の中核「クロスファンクショナルチーム(以下、CFT)」のパイロット(実質的なリーダー)を担い、現在は横浜F・マリノスの社長を務める嘉悦朗氏。多くの苦難を乗り越えた同氏がどのような経緯からクラブ経営に身を転じたのか、また、日産時代に培った経験をどのように生かしたのか。さらに現在のスポーツ業界で求められているのはどういった人材なのか――。ビジネスマンによるクラブ経営の“先駆け的な存在”と言える同氏が、余すところなく語った。

写真=鷹羽康博 インタビュー=岩本義弘

>>倒産寸前の日産を救った大改革…現横浜F・マリノス社長が日産時代を振り返る/連載第1回

>>企業のサラリーマンからクラブの経営者へ…社長として講じた具体施策とは?/連載第2回

――スポーツマネジメントにおいて、嘉悦さんが求めるのはどういった人材でしょうか?

嘉悦朗 スポーツ業界に入りたいと思う人は、経験者か、この業界の華やかさに憧れている人だと思いますが、そういった理由で入ってくると、とんでもない失敗をすると思います。例えば、ビールを飲みながらサッカーを見ている感覚と、当事者として試合の運営をする感覚の間のギャップは、想像以上に大きいです。単に好きだとか憧れでこの世界に入るのは非常に危険です。常にチームが勝利を収め、スタジアムが満員なら苦労はしませんが、当然、負ける試合もありますし、天皇杯でJFLのチームに大苦戦を強いられることもあります。お客さんに罵詈雑言を浴びせられることもありますし、時には想定外のトラブルが起きることもあります。雨が降れば入場者数は確実に減りますし、地震が発生したら数万人のお客さんの安全を守らなければなりません。もちろん、天皇杯で優勝した瞬間や、6万2632人のJリーグ新記録となる入場者数を達成した瞬間は爆発的な喜びを感じましたが、そんな良い体験は数年に1回あるかどうかです。そういう過酷な環境の中でもやっていくためには、まずサッカーやクラブに対する情熱と愛情が必須です。

――そのほかに必要となってくる要素はありますか?

嘉悦朗 忍耐力です。あるいはストレス耐性と呼んだ方が良いかもしれません。それは先ほど言ったような厳しい現実があるからです。加えてサッカーやクラブに対する情熱と愛情が強ければ強いほど、このストレス耐性は重要になります。何故ならば、そんな人材ほど負けた試合の直後は人一倍悔しさを感じますし、立ち直れないほどの喪失感を感じる場合もあります。しかし私たちは、そんな時こそお客さんのストレスの受け皿に徹しなければならない。これは本当に大変です。私は社長という特殊な立場にありますが、大げさではなく1試合1試合、命を削られる思いで観ています。そういう環境の中で、一生涯の生業としてやっていくには、やはり情熱と愛情と忍耐力がなければいけません。

――もし、社長候補に手を挙げた2000年頃、実際に社長を務めていたとしたらどうなっていたと思いますか?

嘉悦朗 大失敗をしていたと思います。経営に関する経験が浅い状態で「優勝したい」「何か歴史に残るような派手な花火を上げたい」という感じになったと思いますから。その結果、後世に負の遺産を遺すというような大失態をやらかしたかもしれません。しかし、今は逆の発想になっています。経営者としてやるべきことは、自分の在任中に大きな成果は出なくても、しっかりした基盤を作って次の世代にバトンタッチする、そしてできれば後世の人たちに、今のF・マリノスがあるのは嘉悦さんのお陰という評価のされ方をするのが最大の喜びだと思います。こういう境地に達するには、やはり優れた経営者の下でいろんなことを学ばなければならないということでしょうね。

――すぐにクラブに入ることが正解とも限りませんし、タイミングは非常に難しいところですね。

嘉悦朗 先ほど挙げた情熱、愛情、忍耐力というのはベースにあるべきメンタリティですが、ビジネスですから、当然ビジネススキルも必要です。もちろんそれが社長というポストであれば多岐にわたる経営スキルが求められますが、クラブのスタッフであれば、このクラブ、この業界で通用する何か1つの領域で構いませんから、大きな芯を一本持っていて欲しいなと思います。チケットに関するノウハウでもいいし、広報に関するスキルでもいい。そして、それをクラブの中で横に広げていく経験を積むことによって最終的には経営者への道も開けると思います。そういう意味で、学生からいきなり入るというのは難しいと思いますが、大事なのは、たとえ学生としての経験だったとしても、将来、この業界やクラブで貢献できると自信を持って宣言できるような「チャレンジ」と「成功体験」を持っていて欲しいと思います。


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