Jリーグがアジア戦略を推進する中、各Jクラブもベトナム進出を加速している。9000万の人口を持つベトナムは現在、15~64歳の生産年齢人口がそれ以外の人口より多い「人口ボーナス期」を迎えている。中間所得層の増加に伴い、消費市場も拡大を続けるベトナムはJリーグにとって魅力的な市場だ。
特にベトナム進出への意欲が強いJクラブとしては、川崎フロンターレがある。川崎Fは、親会社同士が共同で不動産案件を手掛けている関係で、2013年にVリーグの強豪ベカメックス・ビンズオンと初の親善試合を行った。その後も育成分野で交流を続けており、最近では、ベトナムでの認知度アップとファン獲得を目指してベトナム語版Facebookページを開設した。
Jリーグが本年度から実施する東南アジア各国の若手育成5ヵ年計画では、川崎Fがベトナムの強化を担当することになっている。同計画では、一つのJクラブが一つの国を担当。Jクラブは、指導者を派遣して現地の若手らを指導し、国際協力基金の助成金を活用するという。
親会社同士が不動産開発案件を展開するビンズオンと川崎
また、2013年にVリーグのドンタム・ロンアンと提携したコンサドーレ札幌は、同年にベトナム代表レ・コン・ビンを期限付き移籍で獲得したことで、一躍ベトナムで最も有名なJクラブとなった。札幌には現在、提携国枠でインドネシア代表イルファン・バフディムが所属しており、札幌の東南アジア戦略は、ベトナムからインドネシアに路線変更した感がある。ただし、ロンアンとの関係もなくなったわけではなく、昨年は若手の相互派遣を行っている。
そして、現在、ベトナムのサッカーファンが最も熱視線を注いでいるのは、間違いなく水戸ホーリーホックだ。水戸は、「黄金世代(昨年までのU-19ベトナム代表)」のエースである「ベトナムのメッシ」ことグエン・コン・フオンの獲得を狙っているとされる。現所属先のホアン・アイン・ザライ(HAGL)の代表者は、1年のレンタル移籍を行うことで既に合意していると述べている。
「ベトナムのメッシ」ことグエン・コン・フオン
「ベトナムのピルロ」ことグエン・トゥアン・アイン
さらに、地元メディアは最新情報として、横浜FCがU-23ベトナム代表MFグエン・トゥアン・アイン(20歳)をHAGLからレンタルで獲得する動きがあると報じている。同選手は、グエン・コン・フオンと人気を二分する若手スターで、こちらの動きからも目が離せない。このまま移籍交渉が順調にいけば、来季はJ2でベトナム人対決が見られる可能性もある。
この他では、セレッソ大阪もベトナム進出の機会を窺っている。今夏のファン感謝イベントでは、インターネットを利用した「ハングアウトミーティング」を実施。大阪、バンコク、ホーチミンの3か所をネット中継で結んで、セレッソの選手らが各国のファンと交流した。さらに、ホームページの多言語化にもいち早く取り組んでおり、現在、日本語、英語、タイ語、インドネシア語の4か国語に対応。Facebookでは、これらの言語に加えて今年5月にベトナム語版も開設した。
また、横浜F・マリノスは9月中旬にホーチミン市で「ふれあいサッカー教室」を開催。これは、ANAとのコラボ企画で、これまでにジャカルタやヤンゴンなどの東南アジアの各都市で実施している。
トヨタ自動車はVリーグのメインスポンサーに
ベトナム市場開拓ということで言えば、日系企業によるサッカーマケティングも着々と行われている。10月末には、トヨタ自動車がVリーグとのスポンサー契約を更新。ホンダやヤンマーなど既に日本の大企業がスポンサーについているサッカー男子ベトナム代表には今夏、オフショア開発のEVOLABLE Asiaが新たにスポンサーに加わった。
こうしたように、サッカーを通じた「日本」のベトナム進出はこのところ非常に活発化している。レ・コン・ビンが札幌にレンタル移籍した際には、ベトナムでJ2リーグが初放送されるなど、大きな注目を集めたことは記憶に新しいが、前述の若手2大スターのうち、どちらか一方でも移籍が実現すれば、ベトナム人のJリーグに対する関心は一層高まることは間違いない。日越サッカーの関係は今、急速に接近しつつある。
(アジアサッカー研究所/佐藤)
アジアのサッカークラブや事業者の”中の人”になって、本物のサポーターやスポンサーを相手にリアルな運営を体験し、楽しみながら学ぶ&自分を磨く海外研修プログラムです。ビジネスでも大注目のアジア新興国は、チャンスも無限大。何を成し遂げるかはあなた次第!日本にいては絶対得られない体験をこれでもか!と積重なてもらいます。経験・年齢・性別・語学力不問です。
http://samurai-fc.asia/
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