昨今はスマートフォン市場の拡充と、家庭用ゲーム機の性能向上に伴った金額の上昇やゲームの難易度の高まりなどが相まって、若年層のゲーム機離れがささやかれてきた。一方で、サッカーゲーム界では『ウイニングイレブン2016』や『FIFA16』といった、家庭用ゲームにおけるサッカーのビッグタイトルがリリースされ、Play Station4®も値下げをするなど動きが活発だった10月。
ゲーム特集第2回では、家庭用ゲームの現状はどうなっているのか、そして今後の家庭用ゲームはどのような道を歩んでいくのか。ゲーム誌の最大手『週刊ファミ通』の編集長である林克彦さんに、スポーツ系ゲームの話を交えつつ、分析・解説をしてもらった。
●インタビュー=小松春生
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今後はPS4の波が来る
――――――まず、進化著しい家庭用ゲーム機の現状と今後の方向性についてご意見をお聞かせください。
林編集長 数年前から日常の生活にスマートフォンが定着し、アプリゲームが身近な存在となり、老舗メーカーや新規メーカーが続々と参入してきました。各メーカーがいろいろなタイトルをスマホゲームに投入したことによって、「家庭用ゲーム機市場がシュリンク(減る、縮む)したのでは」という意見もあります。確かに市場規模や金額を見ると、若干縮小はしていますが、トータルで考えればゲームの市場や可能性は逆に広がったと考えています。
家庭用ゲーム機やPC、アーケードだけだったところにアプリが加わり、いろいろなジャンルのゲームで打つ手が広がって、よりユーザーが増え、選択肢が増えたのが今の状況だと思っています。
家庭用ゲーム機は今、世代の移り変わりの時期です。プレイステーション4(PS4)が日本で発売されて約1年8カ月が経ちました。10月には値下げされてより購入しやすい価格となり、年末から2016年にかけては大作のリリースが控えています。次世代機への移行が進み、2015年より2016年の方が家庭用ゲーム機市場は盛り上がると考えています。
―――家庭用ゲーム機はすごいスピードで進化してきました。その加速度は今後も増すでしょうか?
林編集長 グラフィックなどは「これ以上良くならない」、「変わっても小さな違いしかない」と言われがちですが、実際に見ると違います。最近の家庭用ゲーム機の流れとしては、メーカーは各プラットフォームに対して同じタイトルを出す戦略を取ることが多いです。例えばPS4だけでタイトルをリリースしても、なかなかリクープできないからなんです。それを幅広く展開することで次につなげる形が主流でした。
しかし、この秋からPS4専用タイトルのリリースが増えてきました。海外も含めての話ですが、PS4だけでリリースしてもプラスになるという判断ができるようになったからなんですね。今後はPS4の波が来る、そちらにシフトした方が未来があるということです。PS4だけに注力して開発を進めれば、グラフィックのレベルやオンラインの生かし方など可能性や選択肢が増えます。新世代機に注力すると、よりユーザーの満足度が上がることにつながると思います。
―――若年層の家庭用ゲーム機への興味は下がっていると思われますか?
林編集長 正直、分からないです(笑)。家庭用ゲーム機で遊んでいるユーザーの年齢は、間違いなく上がっていると思います。僕たちくらいの世代が子どものころに経験したファミコンやスーパーファミコンと同じ感覚で、今の子どもたちはPS4で遊べません。金額も高くなりましたし、スマホなどで情報を得て、日常で遊ぶことの選択肢がゲーム以外もたくさん増えました。
昔はゲームに触れる最初のタイトルが『マリオ』でしたが、今はそれが崩れかけています。『妖怪ウォッチ』や『ポケモン』、さらに『パズル&ドラゴンズ』や『モンスターストライク』であったりします。そこがファーストタイトルとなり、「ゲームは無料で遊べるもの」と子どもたちが思ってしまえば、何万円もかけてゲーム機を買い、何千円も払ってソフトを買うという行動にはなかなか移りません。各メーカーは戦略、プロモーションのかけ方、売り方を試行錯誤しているのが現状です。
―――昔であればファミコン1台で家族の全世代をカバーできたのが、今は世代でハードが変わるということですね。
林編集長 とはいえ任天堂のWii Uは家庭のリビングに置かれていて、年末年始などにみんなで楽しむために欠かせないゲーム機になっています。ニンテンドー3DSも子どもたちに親しまれています。任天堂ブランドのヒット作はいまも多く、やはり強みは失われていません。
スポーツゲームがゲーム業界で果たした役割は大きい
―――海外の市場については拡大傾向でしょうか?
林編集長 欧州やアメリカはスマホゲームもありますが、電車文化がないなど、日本と異なる要因があり、PCや家庭用ゲーム機が強いです。だから日本のメーカーも海外展開を視野に入れているタイトルであれば、PS4だけのリリースでペイできます。海外はPS3からPS4、Xbox 360 からXbox Oneの新世代機へ完全に移行しているので、新世代機だけのタイトルを投入しようという流れになっています。逆にスマホのメーカーは日本と同じようにリリースしても苦戦していますね。
―――海外のゲームはFPS(First Person shooter、一人称視点で空間を任意移動できるゲーム)かスポーツゲームが中心だと思っていますが、実際にそうでしょうか?
林編集長 伝統的に強いのはその2つですね。アメリカには4大スポーツの人気があって、その母数が日本とは圧倒的に違います。もちろん進化もしていますが、タイトルは同じで年数やシリーズナンバーだけを更新してリリースされるものが多いことが根強い人気を示しています。FPSであれば『Call of Duty』や『Battlefield』などがあり、11月にリリースされる『Star Wars バトルフロント』は世界的に見てもインパクトがスゴイですね。傍目から見ると「またFPS?」「またスポーツゲーム?」と思われるかもしれませんが、そのジャンルの中でのニュース性やインパクトがあるもの、遊びたいものが毎年出ているので、人気は不変だと思います。
ただ、昔と比較して日本独自のゲーム文化と言えた協力プレイをするユーザーが海外でも増えています。2人組やチームを作ってより強大な相手に立ち向かうゲームがここ1、2年で増えました。海外でもさすがにFPSばかりだと飽きがくるので、日本の『モンスターハンター』的な良さを取り入れたゲームも増えていると感じています。
―――スポーツゲームがゲーム業界で果たしてきた役割は大きいですか?
林編集長 めちゃくちゃ大きいです。20代~40代の方は特にそうだと思いますが、小さい頃にサッカー部や野球部などの部活に所属していなくても、スポーツに男の子は親しんできました。小中学生時代に『ウイイレ』や『パワプロ』、『ファミスタ』を遊んだという楽しさは今も忘れていないんですよね。そういったタイトルでゲームの楽しさを感じた方は今も多く、その体験から現在もプレイしている方が多いですね。
―――メーカー側もそういったユーザーを大切にしていると。
林編集長 大切にしていますね。昔よりスポーツゲームのタイトルは減ってしまい、サッカーにおいては『ウイイレ』シリーズと『FIFA』シリーズが強く、なかなか他のタイトルがコンスタントに出ていない状況ですが、両メーカーとも毎年新作をリリースしています。メーカーの方でもサッカーゲーム、野球ゲームが好きだから作りたいというクリエイターがいるんですよね。そういった熱意ある方の声があるからこそ、コンスタントにリリースもされていると思います。熱意のある方たちに、先ほど言ったスポーツゲームに親しんでいた30代、40代が多くいることも要因としてあると思います。
―――林編集長の思い出のスポーツゲームはありますか?
林編集長 サッカーだと『エキサイトステージ』ですね。フォーメーションを考えるとき、選手をピッチ上で1マスずつ位置調整できるので、サイドバックをライン際まで出すのか、中央に寄せるのかを考えることが楽しかったです。野球では『パワプロ』派でした。あのシリーズで野球ゲームが1つ進化したと言えて、今でも鮮明に覚えています。好きが高じて誌面で特集を組んだことも(笑)。個人的にはサッカーも野球も大変お世話になりました。
今のゲームは誰かと気持ちいい時間を共有する仕掛けを作ることが求められている
―――スポーツゲームはグラフィックやモーションの進化が続いていますが、今後はよりリアルになっていくと思われますか?
林編集長 現状で相当進化もしていますが、各社で工夫を凝らしていくと思います。オンラインの進化、ユーザーのコミュニティをどうやって作っていくかが大切になるのではないでしょうか。ゲームを立ち上げてログインしてゲームという“場”で交流を図る……、そこにいることが気持ちよくなれるように進化していくと思います。
2016年に『みんなのゴルフ』の新作がPS4でリリースされる予定です。コミュニティを作ることをある意味目的としていて、18ホールある広い空間の中で、誰と会話してもいいし、誰とラウンドしてもいいし、ゴルフではなく池で釣りをしてもいいし、林でかくれんぼをしてもいい……。そこの空間がいかに快適であるかに進化、シフトしています。
今のゲームは全てにコミュニティ的な要素が求められていて、誰かと気持ちいい時間を共有する、何時間遊んでも「また明日もここに来よう」と思わせる仕掛けを作ることが大事になっていて。サッカーゲームもそういった方向性はアリだと思います。試合をするだけでなく、そこにどう滞留させるかを各社考えていくのではないでしょうか。
グラフィックなどの進化以外にも、まだまだできることはたくさんあると思います。PS4やXbox One、任天堂も新ハードの投入を予定しています。新しいもの、進化に期待したいです。
―――特にサッカーは世界に影響のあるキラーコンテンツなので、ゲームとの相互作用を発揮してほしいです。
林編集長 サッカーのようなコンテンツはそうそうないです。日本に関しては昔より本数は減りました。でも、潜在的にサッカーを好きな人はたくさんいます。そういった層をどうやって取り込めるか。ライト層を取り込める余地はまだまだたくさんあると思います。
―――スマホゲーム市場についてはいかがでしょうか?
林編集長 サッカーゲームに関して言えば、「コレ」という頭一つ抜けたタイトルはまだありません。コントローラーの有無も大きく、スマホのインターフェイスでは選手を動かすことに問題もあります。スペックもそうですね。そのためカードゲーム的な内容になっています。逆に言えば、「コレ」というタイトルがないので、チャンスであるとも言えます。昨年、『パワプロ』がスマホで大ヒットしましたが、ゲーム内のサクセスモードに特化した仕様にして結果が出ました。サッカーゲームでもチャンスはあると思いますが、ガチガチに凝ったものだと入り口が狭くなってしまうので、そこは考える必要があると思います。
―――今後は家庭用ゲーム機と連動する形が増えていくでしょうか?
林編集長 僕もいろいろな関係者に、棲み分けやかじ取りをどうするか尋ねることがあります。当然タイトルに左右されますが、スマホはスマホ、家庭用は家庭用と別物で考えている方が多いですね。スマホも進化してスペックが上がっていくことで、家庭用ゲーム機と同等の作品をマルチ展開することも可能になると思います。ただ、大画面のモニターでプレイすることの良さ、スマホの画面でプレイすることの良さはベクトルが違うものです。大画面で腰を据えてコントローラーを握って楽しむことの良さは失われないですし、自分の時間を贅沢に使って、何時間も遊ぶことができることの良さがあります。
スマホは、1日の中で触れている時間占有率は高いですが、基本的には日常の空き時間を上手く使って遊ぶものです。そこには根本的に違うものがあると思っているので。映画とDVDやテレビドラマの違いに近しいかもしれませんね。
―――今後の家庭用ゲーム業界に期待していることは何でしょうか?
林編集長 この何年かは、「電源をつけてゲームを立ち上げるのが面倒くさい」という声が出ていたと聞きました。でも最近はそういった声を個人的には聞かなくなりました。スマホにはスマホ、家庭用には家庭用のそれぞれのゲームの良さがあって。時代とはグルグル回るものだと思っていて、きっとまた家庭用ゲームをみんなで遊ぶ楽しさが求められるようになってきていると思っています。先ほど『みんなのゴルフ』を例に挙げましたが、オープンワールドの中でいろいろなことができる、家に帰ってちょっとした時間をゲームに使いたくなるようなコミュニティ要素を持ったものがどんどん増えてほしいと思っています。
もともとのゲームタイトルが面白くないといけない、ゲームの面白さは絶対ですが、それが前提でそこに滞留させるためのコミュニティ、居心地のいい空間作りがもっとできてくれば、「あそこ流行っているから、俺も行ってみようかな」といったアプローチもできるのではと、期待を含めて思っています。
殺伐とした『Grand Theft Auto』や『Call of Duty』、明るく家族で楽しめる『みんなのゴルフ』、今流行している『Splatoon』のようにカジュアルでポップだけど奥が深いもの…。いろいろなものがあるのがゲームの魅力ですが、どれもオンラインの要素がある程度は欠かせなくなっているので、もっと盛り上がったり、浸透していくと思っています。
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By 小松春生
Web『サッカーキング』編集長