11月12日のシンガポール戦でヴァイッド・ハリルホジッチが、日本代表の監督に就いてから12試合を消化した。本田圭佑は新指揮官のもと最多8試合の先発、チーム最多の6ゴールを奪い、チームの中軸を担っている。
今回は、本田圭佑が名古屋グランパスに在籍していた21歳のとき、Jリーグサッカーキング2007年8月号(2007年6月24日発売)に収録されたインタビューを紹介。当時からサッカーを「日常」と話し、「自信家だと思う」と話す本田。常に勝利を望む男の強い思いが、このインタビューに隠されている。
プロ入り3年目の今年(2007年)、本田圭佑は大忙しだ。チームの名古屋グランパスでは左サイドを任され勝利を目指して奮闘し、北京五輪を目指すU-22日本代表では主軸として躍動し、日本代表には飛び級で3度目の選出を果たした。順調にステップアップしている彼の素顔とは?
インタビュー・文=出口夏奈子
写真=足立雅史
84年の生涯において1300もの発明をしたとされている発明王、トーマス・アルヴァ・エジソンの言葉に有名な言葉がある。「天才とは、1パーセントのひらめきと99パーセントの努力である」
エジソンだけでなく、過去に天才と呼ばれた人物は皆、失敗を重ねても決してあきらめることなく努力を続けてきた者たちだ。アルベルト・アインシュタインしかり、ライト兄弟しかり、そして野口英世しかり……。
エジソンの言葉を知ってか知らずか、本田圭佑は己のことを「天才タイプ」と口にする。当然ながら、その発言の真意は本人にしか分からない。しかし、彼の言葉に耳を傾け、そしてサッカーに真摯(しんし)に向き合う姿を見れば、彼の言葉に嘘がないことが分かる。「負けず嫌い」で「自信家」。
その間に「努力」がないはずがない。
中学の頃から書き続けたサッカーノートには、プレーについて思ったことや人に言われたこと、人に言ったこと、そしてその時々の自分の素直な思いが書き留められている。そしてそれらを書くことで、サッカーに取り組む姿勢が変わっていないことを再確認しているのだという。すべては大好きなサッカーのために……。
6月13日に21歳になった本田圭佑は今、何を思っているのだろうか。
呼ばれるたびに募る日本代表への思い
――今シーズンは、これまでチームと代表と忙しかったと思います。振り返ってみてどうですか?
本田圭佑 チームとしても調子の波が激しいし、個人としても波があるんで、チームとしても個人としてもまだまだ課題があるからこういう結果なのかなと思います。チームとして上位を目指すには、安定した戦いができないといけないし、個人としてもそうですね。
――現在のご自身のコンディションは?
本田圭佑 波があるので、同じようなパフォーマンスを続けていけるようなコンディションがあればいいなと思います。疲れも波があるんで、その中でどういったプレーをして、パフォーマンスを維持するかをもっと考えないといけないですね。
――コンディションを維持するための調整法を何か持っていますか?
本田圭佑 私生活のメリハリをしっかりつけること。それが一番試合にもっていきやすいんです。やる時はやる、休む時は休む。終わってしまえば、ダルーンとすればいいし。
――普段のオフの過ごし方は?
本田圭佑 DVDをよく見ていますね。最近は『プリズン・ブレイク』を見ているんですけど、あれはめっちゃ面白いですよ。一度にまとめてガーッと見る感じじゃなくて、昨日も1本借りてきて見たしね。
――さて、先日のキリンカップでは3回目の日本代表招集でしたが、オシム監督が目指すサッカーをどう理解されていますか?
本田圭佑 実際に3回やってみて、外から見たりして思ったのは、それぞれの状況でどのプレーを選べばいいのかをできるだけ早く判断するということ。そうすることで相手がボールを奪いにくる術がなくなるし、相手に考える余地を与えさせない、という意味のことをオシムさんはいつも練習中に言っています。要は、早く判断しろってことですよね。ボールを持つ時間が長くなると、相手に考える時間を与えてしまう。相手が強いチームになってくるとそれでは通用しない、ということを言いたいんじゃないかなと思います。
――日本代表に自分が呼ばれている理由、求められている働きをどう捉えていますか?
本田圭佑 Jリーグである程度やれているのと、若いから選ばれているんだと思います。そういうのを武器にして、いいアピールができたらいいですね。
――試合で使ってもらうために今、必要なこととは?
本田圭佑 オシムさんに使ってもらうには、単純に走るということが大事になってくるでしょうね。
――コロンビア戦前日には、「早く試合に出たいという気持ちは1回目の招集の時よりさらに強くなった」と言っていました。
本田圭佑 始めから試合に出られると言われているわけじゃないので、焦りとかは全く感じていません。U―22代表の選手が試合に出ても、「頑張っているな」と思うし、いい刺激にもなるけど、そういうのが焦りになるとかはないですね。
――今回、同時期にU―22日本代表も合宿を行っていましたが、動向が気になったりしませんでしたか?
本田圭佑 合宿中はそこまで情報が入ってこなかったんですけど、多少気にはしていましたよ。マレーシア戦はちょっと見たけど、即席のチームだったと思うので、コミュニケーション的にまだまだやれることがあったんじゃないかなと思いましたね。個人でアピールしようという気持ちがあったと思うんで。あと、長友佑都(明治大)君はよく走るって聞いていたから見てたんですけど、先制点はいいゴールだったと思います。
――では、9日間の合宿で学んだことは?
本田圭佑 どうやったら試合に出られるのかを日々考える中で、出たいという気持ちがより強くなったということですね。1回目に呼ばれた時より2回目のほうが強かったし、2回目より3回目のほうが強くなってきている上で、それがだんだん明確になってきていると感じます。
――代表の練習は夜からですが、昼間はどんなことをして過ごしていたのですか?
本田圭佑 極力寝てますね。でも、昼飯前に散歩に行かないとダメなんで、散歩に行ってからまた寝る感じです。みんなもそうじゃないかな。家長(昭博/G大阪)も起きてこないですよ。冬眠してますね(笑)。
――それは疲れからですか?
本田圭佑 もちろん練習も疲れるけど、やっぱり日本代表というのはいろんな意味でピリピリしたムードがあるんでね。普段の生活とは違ってくるから、確かに疲れているとは思うんですよね。ただ、練習が夜遅いので、当然寝るのも遅くなるし。ホテルに戻ったらだいたい10時を過ぎていて、夕食を食べたら11時過ぎで、それに練習した後は脳が活性化されているから、そんなにすぐは寝られないんでね。だからできるだけ体を休めるようにはしています。
ゴールとは信じてやってきたことが、報われた瞬間
――本田選手のこれまでのキャリアを教えてください。
本田圭佑 サッカーを始めたのは小学校2年の夏で、あんまり覚えてないんですけど、最初はトップ下とか攻撃的なポジションをやっていたと思います。中学生になってガンバのジュニアユースに入って、その時も攻撃的なポジションでしたね。左サイドをやったり、トップ下だったり、ボランチだったり。レギュラー自体も固定ではなかったし、僕自身もサブになったりしていた。だから空いているポジションをやるという感じでした。サイドバックをやったこともありますし、3年間ずっと同じということはなかったですね。星陵高校でも同じです。左やって、トップ下やって、ボランチやって、そんな感じでしたね。
――ポジションにこだわりは?
本田圭佑 ないですね。プロになってからは、自分の特長を生かせればいいと考えるようになってきましたね。
――では、本田選手にとって一番やりやすいポジションはどこですか?
本田圭佑 プレーをする種類にもよりますけど、やっぱりボールをつなぐという意味では後ろのほうがやりやすいですよね。だいたいフリーでボールをもらえるわけですから。ただ、サイドの後ろをやったら、上がらなければいけないし、たくさん走らなければいけなくなってくる。逆に前のほうだと攻撃に絡めるけど、高いクオリティーが要求されるというか、やることが難しくなってくる。だから、やるポジションによっても種類は違いますけど、つなぐ気でやるんだったら後ろのほうがやりやすいですね。前だったら、逆にそういうことはたくさんできる場所ですけど、フィニッシュとかいろんな意味で質の高いものが求められるので、そういう意味では難しいですね。
――好きなプレーはどんなプレーですか?
本田圭佑 やっぱりゴールに絡むプレーが好き。パスを出したり、シュートを打ったりね。
――ゴールすること自体はどうですか?
本田圭佑 ゴールっすか? そんなに得点するような選手じゃないんで、そこまでゴールで喜ぶとかはないですけど、記憶に残るのはやっぱりいいゴールですよね。
――5月16日の北京オリンピック2次予選の香港戦では、素晴しいFKがありました。
本田圭佑 やっぱりFKでゴールを決めるのはいいもんですね。自分の空間に入れるんでね。でもあの変化は、なかなか予測できるもんじゃないですよ。
――ゴールが決まった瞬間というのはどんな感じなんですか?
本田圭佑 当然、うれしいという気持ちもあるけど、それ以上に自分のやってきたことが報われたなぁと感じる瞬間です。自分の信じてやってきたことが出せた瞬間っていう感じがしますね。
――さて、プロ入り後、チーム史上4人目の高卒ルーキー開幕デビューを飾り、ワールドユース出場、U―22日本代表、日本代表と順調にきているように感じます。
本田圭佑 そんなことないですよ。本当に挫折の連続で。思った以上にプロのレベルは高いし、もちろん逆のパターンもありますけど。それでもレベルが高いのは間違いないし、その中でやれてない部分が多いんで、イメージ的には毎日、課題が残っているなと。1試合の挫折も十分な挫折だと思うし、ガンバのユースに上がれなかったのも、僕にとっては大きな挫折だと思いますしね。
――その時の気持ちは?
本田圭佑 もともと僕は高校でプレーするつもりだったし、ユースに上がる気はなかったので、「上がれへんかった」とかそんな程度で、「見返してやろう」とか、そういう気持ちしかなかったですね。
――今、見返せてると思いますか?
本田圭佑 いやー、ガンバが今一番強いですからね。Jリーグで優勝できたら、見返せたことになるんじゃないかな。だから、今の段階ではそういうことは言えないですね。結果として出ないと意味がないことだし。
今日やったことを明日につなげるサッカーノート
――本田選手のことを自信家と言う人もいますが、ご自身ではどう思っていますか?
本田圭佑 自信家だと思ってます。これは性格なんじゃないかな。
――本当は努力をしているからこそ、その上に沸いてくる自信なのではないですか?
本田圭佑 自信家と言われれば自信はあるし、負けず嫌いでもある。素直なところもあるなと思うし、逆に素直じゃないなと思うところもありますね。
――サッカーの反省点を毎日ノートに書き留めていると聞いたことがあるのですが。
本田圭佑 今はスタイルを変えましたけどね。中学1年くらいから始めて、今でも毎日つけていますね。どうしても書けない時はあるんでね、そういう時は2日分まとめてつけたりとか。でもサッカーのことだけじゃなくて、昔から日記みたいな感じでしたよ。
――ノートを書き始めて変わったことは?
本田圭佑 それをやってて、一つだけ確実にメリットなんじゃないかなと思えることは、例えばサッカーのことを書くとして、サッカーのプレーについて思ったことを書いたり、人に言われたことや人に言ったことで記憶に残っていることを書いたとしたら、決して忘れないんです。勉強で言ったら、授業でしたことをもう一回家で復習するみたいな感じで。サッカーでやったことをもう一回ノートに書くことで、やろうとしてることをしっかり明日につなげられる。そういったことを書いている時に思うのは、サッカーに対する思いが強いし、確固たるものになっているなと。その後は気持ちがすがすがしいし、ノートには嘘をつけないんでね。もちろん弱気なことを書くかもしれないし、そこでも意地を張っているかもしれない。そういった自分の性格がそのまま出ていますね。
――それは、誰にも見せたことがない?
本田圭佑 そうですね、見せてないですね。見せるものではないですし、自分の問題だと思うんですよね。それで自分がモチベーションを上げられているのか、自分のサッカーに取り組む姿勢が今までと変わらずにいられているのか、そういうのを確認できる瞬間だと思っています。
――(2007年)6月13日で21歳になりましたが、今思い描いている将来像は?
本田圭佑 サッカーをやめても、人として周りが慕ってくれるような存在でいたいですね。人とのつながりを、サッカーが終わっても継続して、楽しい、のんびりした生活を送りたいなと思いますね。
――基本はのんびりするのが好きですか?
本田圭佑 マイペースですね。人に合わせるのが嫌なんでね。自分のペースに人を巻き込みたいタイプですね。
――最後に、本田選手にとってサッカーとは何でしょうか?
本田圭佑 日常ですかね。
――常にサッカーのことを考えているのですか?
本田圭佑 サッカーが中心になっていますね。中毒みたいなモノで、依存してしまう。抜けられなくなる。サッカーを中心に生活が回っているとすごく感じますね。
――そこまではまってしまうサッカーの魅力とは?
本田圭佑 何なんですかね? それは一生分からないでしょうね。たかが1個のボールを蹴り合うスポーツで、何でそこまで本気になって、何でそんなに周りは応援するんだと。それは多分、一生分からないんじゃないかな。
By サッカーキング編集部
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