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アジアサッカーで働く日本人 シンガポールサッカー協会・池田憲昭さん

2016.03.18

近年、多くの日本人サッカー選手がアジアに活躍の舞台を求めるようになっており、どんな小国のプロリーグでも日本人がプレーする姿を見かけるのは珍しくなくなっている。しかし、日本人がアジアのサッカーに貢献できる場所は、なにもピッチレベルだけには留まらない。日本サッカーを競技面でも運営面でも短期間でアジアトップレベルまで引き上げた経験やノウハウは、選手育成やクラブ運営など、多くの場面で必要とされており、アジア各地のサッカーシーンで働く日本人の数も徐々に増えつつある。シンガポールサッカー協会(以下FAS)でマーケティングマネージャーを務めている池田憲昭さんは、そんなアジアサッカーの「裏方」として働く日本人の1人だ。「シンガポールにおけるサッカーの価値を高めたい」という池田さんに、シンガポールに来ることになった経緯や日本人がアジアのサッカ界ーで働く意義について伺った。

-FASで仕事をすることになった経緯を教えてください。

「2011年に日本サッカー協会とFASが、さらに2013年にはJリーグとSリーグがパートナーシップ協定を締結しました。現在の私のポジションは、まさにこれらの協定によって生まれたものです。日本からFASにスタッフを送り込むことで、協会のマネジメント強化やSリーグの運営の効率化を図ることが目的です。『国際交流基金のサポートを得られたので、Jリーグからシンガポールへ日本人スタッフを派遣したいのだが、誰か適任な方はいないか』という相談がJリーグのスタッフからアルビレックス新潟シンガポール(以下アルビS)のCEOでSリーグの理事も長年務めた是永大輔に行き、Sリーグを含めた三者で話し合った結果、昨年11月から私がアルビSからFASに出向するさせていただくことになりました」

昨年12月に松本山雅FCの練習に参加したシンガポール代表GKイズワン・マーブド選手(写真中央左)の通訳を務める池田さん(中央右) ©Epson Singapore

-FASではどのような仕事をされているのですか。

「シンガポールサッカーを発展させるためのマーケティング戦略をつくり、それを実行するにあたってのアシストが大きなミッションになります。具体的な例を挙げると、シンガポール代表がホームで戦ったワールドカップ予選の試合運営やマネジメント、さらにヤングライオンズ(編集部註:シンガポールU-21代表を中心に構成されるSリーグクラブ)の集客やマーケティングなどです。昨年シンガポール代表GKのイズワン・マーブド選手が松本山雅FCの練習に参加した際には、現地でのアテンドや通訳も担当しました。今後はSリーグ全体のマーケティングにも関わることになっています」

-FASには池田さんのような外国人スタッフも多いのですか。

「代表チームの監督やコーチを含めて、テクニカル部門には外国人スタッフが何人かいます。アンダー世代の指導者や審判委員会で日本人スタッフが働いていたこともあり、現在でもNFA(ナショナル・フットボール・アカデミー)U-18監督として井上卓也さん(元大宮アルディージャ・コーチ)が所属しています。ただ、わたしのようなバックオフィスのスタッフとして、外国人スタッフが派遣されてくることは非常に稀なケースだと思います」

シンガポールサッカー協会のオフィスは、代表チームの国際試合やSリーグの公式戦も行われるジャランベサル・スタジアムのメインスタジアム2階にある

―シンガポールに来る前は、どのような仕事をされていたのですか。

「アルビSがカンボジアで立ち上げた『アルビレックス新潟プノンペン』でGMをしていました。もともとスポーツビジネスに関わっていたわけではなく、以前はアメリカや日本のIT企業でマーケティング関連の仕事をしていたのですが、たまたま友人を通してアルビSのCEOである是永と知り合って、「カンボジアに作るプロクラブのGMをやらないか」というオファーをもらい、子供の頃から大好きだったサッカーの世界に入ることになりました。スポーツビジネスが未発達なカンボジアでのプロクラブ運営には様々な障害があり、同クラブのトップチームの活動は残念ながら1シーズンで停止することになったため、昨年5月からシンガポールに異動することになりました。現在はアルビSに籍を置いて、出向という形でFASで仕事をしています」

-FASのマーケティングマネージャーとして、シンガポールサッカーの現状をどのように見ていますか。

「サッカーはシンガポールで一番人気のあるスポーツで、サッカーファンの方はたくさんいます。しかし、Sリーグの試合でスタジアムが満員になることは少ないというのが現状です。昔は国内サッカーも人気があったと聞いていますが、英国プレミアリーグやリーガ・エスパニョーラなどを簡単にテレビ観戦できるようになったことで、Sリーグへの興味は薄れてしまったようです。また、国土面積が東京23区ほどしかないシンガポールでは、地域色を出すのが難しいという課題もあります。多くのお客さんにスタジアムへ足を運んでもらうためには、しっかりとしたマーケティング戦略が必要と感じていますし、観戦に訪れたスタジアムで楽しんでもらうための施策も大事です。さらに各クラブが地域コミュニティーの学校を訪問したり、ボランティア活動に取り組んだりすることも重要だと感じています。こうした活動を積極的、継続的に行っていくことで、地域の人たちに『自分たちのクラブ』という認識をより強く持ってもらうことが大切だと考えています」

SMRT社が運行しているSリーグのラッピングが施された地下鉄車両

-Sリーグを盛り上げるために、どのような取り組みが実施されていますか。

「今シーズンはライオンズXII(編集部註:シンガポール代表選手を中心に構成されたチームで昨年までマレーシアリーグに参加していた)の選手たちがSリーグに戻ってきたことや、アーセナルやリヴァプールで活躍したジャーメイン・ペナント選手がタンピネスに入団したことで、近年なかった注目がSリーグに集まっています。今後はこれを継続していくための施策を続けていかなければなりません。今シーズン開幕前には、公共交通機関を運営するSMRT社とパートナーシップ契約を結び、Sリーグのラッピングを施した地下鉄車両を運行しているほか、駅構内の電子モニターでSリーグの試合クリップを放映したり、試合が行われるスタジアムの最寄駅ではビルボード(広告スペース)に告知活動を展開することになっています」

-日本人スタッフとしてシンガポールサッカーにどのような貢献ができると考えていますか?

「JリーグとSリーグのパートナーシップ協定の意義を形にするためにも、現在のポジションで私自身が何らかの結果を出すことは必須だと感じています。Jリーグが成功してきた要因やノウハウを伝えていくことになりますが、日本とシンガポールでは文化や風習、そしてマーケットも違うので、どうしたらこの国に合わせることができるかを考えながら実行していくことが大事です。Sリーグにも20年以上の歴史があり、これまで様々なマーケティング活動が行われてきました。過去の成功事例や失敗事例も見直して、そこに日本ならではの視点から新しいインプットを加えることで、これまでとは違った結果が出てくることを期待しています。将来的にシンガポールでのサッカーの価値が上がり、サッカー選手がシンガポールの子供たちにとって憧れの職業になって欲しいと願っています」

池田憲昭(いけだ・のりあき)さん
アメリカや日本のIT企業でマーケティング関連業務に従事した後、2013年にアルビレックス新潟プノンペンのGMに就任。カンボジア1部リーグに新規参戦するクラブを、選手も監督もいないゼロの状態から立ち上げた。同クラブのトップチームが2015年3月に活動停止をなったことを受けてシンガポールに活動の場を移し、同年11月からシンガポールサッカー協会(FAS)でマーケティングマネージャーとして勤務している。

(取材・文 アジアサッカー研究所/安藤)

「サムライフットボールチャレンジ」とは、
アジアのサッカークラブや事業者の”中の人”になって、本物のサポーターやスポンサーを相手にリアルな運営を体験し、楽しみながら学ぶ&自分を磨く海外研修プログラムです。ビジネスでも大注目のアジア新興国は、チャンスも無限大。何を成し遂げるかはあなた次第!日本にいては絶対得られない体験をこれでもか!と積重なてもらいます。経験・年齢・性別・語学力不問です。
http://samurai-fc.asia/

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