J3リーグのSC相模原には元日本代表選手がクラブの代表を務めているという、ちょっと珍しい一面がある。今回はチームをゼロから育てあげてJリーグまでたどり着いた元日本代表MF望月重良氏を直撃。かつて一人の大卒ルーキーとしてアーセン・ヴェンゲル氏に師事した経験を振り返ってもらいつつ、相模原で実践している選手補強の哲学を含めた「クラブ経営」についても圧倒的熱量とともに語ってもらった。
インタビュー・文=川端暁彦
写真=野口岳彦
■ヴェンゲルは「監督」の域を超えている
――ヴェンゲルさんとの初対面の印象は覚えていますか。
望月重良(以下、望月) 大学時代に筑波まで来てくれて会ったのが最初ですね。ただ、当時の僕はヴェンゲルさんがどれだけすごい方なのかも分かっていなかった(笑)。指導を受けてからも、僕にとっては初めてのプロ監督だったので、「プロはこういうものなのか」という感じで、その指導力の違いを感じるようになったのは、他のいろいろな監督に指導を受けるようになってからだったりするんですよ。
――望月さんの中に基準がなかったんですね。
望月 プロとして15、6人の監督の下でプレーしたわけですが、後になって「やっぱりヴェンゲルさんってすごかったんだ!」と思うことになったわけです(笑)。
――どの辺りにスペシャリティを感じましたか。
望月 まず、緻密さですね。練習メニューが本当に豊富で、マンネリがまるでないんです。監督さんによっては「月曜日はこれで、火曜日はあれ」という形が決まっていることも多いのですが、ヴェンゲルさんに関してそれはなかったですね。完全に同じ練習は一度もなかったんじゃないでしょうか。これは(イビチャ)オシムさんもそうでしたが、選手をあきさせない、緊張感のあるトレーニングを作り出せていました。言葉で言うのは簡単ですけれど、実践するとなると本当に難しいことです。
――ヴェンゲルさんが日本を去られたあとに何か交流はありますか。
望月 最近ですと、一昨年にチームを率いて来日された際に瑞穂で話す機会がありました。練習も見学したのですが、「あ、俺が96年にやっていたのと同じような哲学でやっているな」というのがすぐに分かりましたよ。懐かしかったですね。
――どんなお話を?
望月 僕がクラブを立ち上げて、こんなことをやっていますという話をしました。ヴェンゲルさんは「おお、そうなのか。頑張れよ」と(笑)。ヴェンゲルさんは単なる監督ではなく、お金の部分、クラブ全体のマネジメントの部分まで任されている監督さんですから、その辺りの話もさせていただいたんです。
――イングランドでのヴェンゲルさんの仕事ぶりはどう観ていましたか。
望月 もう、「監督」の域を超えていますよね。単なるピッチ上の指導者ではなく、クラブの経営者としての感覚でやっているところが大いにあるんだろうなと思っていました。これも今にして思えばですけれど、名古屋時代もクラブに対するマネジメント力はちょっと違ったものがありましたよね。
――どういう部分でそれを感じられましたか。
望月 サッカーって、11人しか先発で出られないスポーツですよね。僕が一人の選手として感じたのは、出ていない選手や若手に対する目配り、声掛けの部分です。そういう選手に「観てもらっているぞ」と意識させる配慮はいろいろな形であったなと思います。監督にもいろいろなタイプがあって、まずディテールから入っていく方もいれば、大枠のオーガナイズを最初に打ち出す方もいると思います。ヴェンゲルさんは完全に後者でしたね。あと、こちらが何を質問しても、必ず理路整然と大枠に基づいた答えが返ってくるんですよ。そこは本当に違いを感じましたね。
――それはヴェンゲルさんの下で新人として過ごしたからこそ見えたものですね。
望月 あの頃の僕は1.5軍というか、先発もあればベンチもあるというライン上にいたので、「とにかくレギュラーを奪いたい」という一心でプレーしていました。だから監督にはたくさん質問をしましたよ。その全部にしっかり答えがあった。本当にシンプルで分かりやすくて、説得されちゃう話でした。「サッカーとはこういうものだ」、「プロフェッショナルとはこうあるべきだ」ということをプロ1年目から吸収できたのは本当に大きかったですね。
――いまにして思えば?
望月 そうです(笑)。
■まずクラブに対する自分の哲学を持つこと
――特に印象に残っている質問と答えはありますか。
望月 ヴェンゲルさんは僕をFWで使いました。大学までずっと中盤でプレーしてきていたので、前線で起用されることに対する不満があったんですよ。監督に「納得できない。ボランチで勝負させてくれ」ということを言いに行ったんです。そうしたら、「君はまだ22歳の選手だろう。いろいろなことを吸収しなければいけないし、もっとサッカーについて知らないといけない」と諭されました。「FWとしての適性があると思っているし、ストイコヴィッチと2トップを組む君の存在はチームにとって大事なピースなんだ」と言われてしまうと、「俺、期待されているんだな」と(笑)。選手のことを考えてくれているんだと思う言葉があって、自分の心にスッと入ってきましたね。
――FW起用は後々になって効いてきたわけですね。
望月 やっぱり視野を狭くしてはいけないなと思います。自分が指導する立場、選手を観る側に回ったときに、あらためてヴェンゲルさんから受けた薫陶は生きていると感じます。当時は衝撃的でしたし、クラブ経営をするいまの自分の中でも大切な財産ですね。
――指導される上でも生きたんですね。
望月 相模原のクラブを立ち上げてから、肩書きこそ「監督」ではありませんでしたが、指導の現場には立っていたんです。そのときにヴェンゲルさんの真似というか、似たようなアプローチの仕方はしましたね。練習メニューも参考にしましたし、いろいろと落とし込んだ部分はありましたね。
――経営者としての影響はありますか。
望月 世界中そうだと思いますが、お金のあるクラブが大きな額を投資して勝ちを狙う流れがあると思います。その中にあって健全経営で進んでいく考え、博打に走らない経営というのは英国でのヴェンゲルさんのやり方に通じるものがあると思います。タイトルが少ないという人もいますけれど、あのイングランドにあってクリーンな経営でやり切れているマネジメントは本当にすごいと思います。
――マネジメントという意味では育成に対する考えも特徴的です。
望月 彼の「目」がクラブにとっての財産になっていますよね。僕みたいな選手をFWに抜擢する発想力も含めてですが、日本人の監督ではちょっと持っていないものだと思います。それが向こうに渡ってからも、若い選手の発掘で生かされているんだろうな、と。
――望月さんは、その「目」を持たないといけない立場になっています。
望月 そうですね。自分が考えているのは、まずクラブに対する自分の哲学を持つこと。その軸を作った上で、いろいろなところを動かしていくことは意識しています。たとえば、絶対に健全経営を維持することは、すべての前提だったりします。
――選手を獲る側としての哲学は?
望月 あえて悪い言葉をちょっと使わせてもらいますけれど、「下手な選手は獲得しない」ということは徹底しているつもりです。やはりサッカーはボールを扱う仕事なので、僕のサッカー哲学の中では「ない」ということ。もちろん身体的な特長も大切ですが、「速いだけ」、「大きいだけ」の選手は獲りません。それこそ、ヴェンゲルさんもそうだと思います。やっぱり、下手な選手は獲らないですよね。テクニカルなモノを持った上での、ストロングポイント。速いとか強いとか。その基準はブレずに持っているつもりです。
――選手を獲る上ではクラブの予算的な限界もあると思います。望月さんはどのポジションにお金をかけることを意識されますか。
望月 それは日本にいたころのヴェンゲルさんもそうだったと思いますが、真ん中のラインですね。センターフォワード、中盤の中央、センターバック。この骨となる部分に、当時は外国人選手を配置していました。そこにお金を投入して、サイドはそれほど高くない選手で固めていた印象があります。僕がチームを編成するときにも同じイメージで、まず「中央の柱」を作ることを意識しています。僕が相模原を立ち上げたとき、本当にアマチュアのリーグである神奈川県3部からのスタートでしたけれど、僕はセンターフォワード、中盤の中央、センターバックをプロ選手として集めました。そこはヴェンゲルさんと同じアプローチだったのかもしれません。
――軸を固めるわけですね。
望月 ここには、もう一つの考え方もあります。僕が名古屋に入って最初に使われたポジションはFWでもボランチでもなくて、サイドハーフだったんですよ。中西哲生さんに「何で俺がサイドなんだ?」なんて愚痴を言ってしまったのですが、そうしたら中西さんはヴェンゲルさんに聞きに行ってくれたんですよ。そうしたら、返ってきた答えは「若い選手はチャレンジをしてほしいんだ。真ん中で重い荷を背負わせることはない」というものでした。入ったばかりの選手にプレッシャーの掛かる、ミスの許されないポジションを任せるのではなく、まずサイドで伸び伸びやらせようという発想だったんです。それを聞いて、「ああ、納得」と思いました(笑)。まずサイドで出してプロでやる自信をつけてから、真ん中のラインで競争させていく。そういうマネジメントだったわけですし、センターラインから補強していくという考えの背景にあるのも、そうした考え方だと思います。
――では、相模原を観るときはセンターラインに誰がいるのか要注目ですね。
望月 そこには、お金をかけていますから(笑)。今回獲得した川口能活もそうですし、(昨季まで所属した)高原直泰(現・沖縄SV)もそうですよ。
――中央にベテランを置きたい、と。
望月 経験のある選手がいるのは大事なことですが、何より「力のある選手」ということです。周りを引っ張っていく力のある選手が真ん中のラインにいないことには、チームとして収まりが悪いというか、安定しないんですよね。まとまりも出てこない。
■ヴェンゲルが来てくれるなら赤いネクタイで構いません(笑)
――相模原のお話も聞きたいのですが、9年目のシーズンを迎えていかがですか。
望月 やはり僕の哲学として「すぐに結果を出さなければ」という焦りは良くないと思うんですよ。今季に関しても無理はしていません。当然ながら勝つことを目指していきますが、何よりも成長していくことが肝心だと思っています。無理はしないチーム作りにしていますし、身の丈に合った中で良い選手を獲ってくることが僕の仕事なんだと思っています。「この金額でこういうレベルの高い選手が獲れる」というところに自分がこのクラブにいる意味もあると思っています。大金をかけて連れてくるのは簡単ですけれど、それだと経営が破綻してしまいますから。
――実は望月さんについては、交渉力が非凡だという声もあります。
望月 そんなことないですよ。僕はストレートに行くだけなんです。欲しい選手に関しては情熱を持って「頼むから来てくれ!!」と言うだけ(笑)。駆け引きのスキルなんて持っていないですし、来て欲しいという思いを失礼のないように伝えている。それだけです。
――しかし、かなりの選手が集まっている印象もあります。
望月 予算が限られた中で言えば、結果として良い選手に来てもらっているとは思っています。バランスの取れた選手編成になったとは思います。
――スポンサー獲得という経営的な交渉力はいかがですか。
望月 そちらは頭を下げるだけ(笑)。僕が現役のときはイケイケの選手だったので頭を下げることはまるでなかったんですが、いまは真逆ですね。ただ、営業をしながら徐々にSC相模原という存在を知っている人が増えていることを感じていますし、地元の期待感が高まっているのも痛感しています。ただ、Jに上がって1年や2年で形になるものでもないと思っています。歴史も必要ですから、いきなり大金を得ようとするのではなく、まずは健全経営で積み上げていくことが肝心だと思っています。
――ブレない哲学があるということですね。ありがとうございました。ところで最後の質問なのですが、仮に望月さんがヴェンゲル監督を相模原に招けるとしたら、どういうオーダーをしますか?
望月 うん、そうですね。そのことについて考えるには、まず彼と交渉するイメージを持つ必要がありますね。ヴェンゲルさんはスーツ姿がおなじみですが、必ず赤のネクタイなんですよね。赤いネクタイを持っていって「僕のこれをはめてくれないか」と言うところからでしょうか(笑)。
――相模原のチームカラーは綠じゃないですか。
望月 そうですね(笑)。でも、本当に来てくれるなら赤いネクタイで構いません(笑)。本当に来てくれるなら、全権を任せるくらいのことは言うでしょうね。クラブのマネジメントを含めてやってほしいし、あの方は向こうでスタジアムまで建ててしまって、しかも選手の売り買いを通じて得たお金を駆使して返済してしまいましたからね。あのノウハウが欲しいです。相模原でも建ててくれ、と(笑)。やっぱりヴェンゲルさんみたいに、監督を超えたところでクラブ全体を観て、考えて、行動する。そこには大きな夢があると思っています。
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■インタビューや『ウイクラ』情報が詰まった特集ページ
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【第1弾】望月氏が語るヴェンゲル“経営編”はこちら
【第2弾】中西氏×戸塚氏が著書の舞台裏を明かす“ベンゲル・ノート編”はこちら
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