文=小谷紘友(サッカーキング編集部)
写真=ムツ カワモリ
フランスは「格下相手に大観衆の前で赤っ恥をかいた」という感覚だが……
歴史的に大きな勝利だったことに、間違いはない。
日本代表は、12日にアウェーで行われたフランスとの強化試合で1-0と勝利した。6度目の対戦での初白星なのだから、歴史的勝利という表現は的外れではない。
「相手が格上ならまだ落ち着けるが、今日はそういう試合ではなかった。選手のことを思うと落胆する」と、フランスのディディエ・デシャン監督は、就任後初黒星を喫した試合を振り返った。「ずっと我々が試合をリードしていて、点を決められず、最後に罰をくらった」という言葉が表すように、フランスからすれば自滅の様な形で格下に白星を献上した感覚なのだろう。
ただ、デシャン監督の感覚は、フランス人一般のそれとも決してかけ離れていないと想像できる。自分たちは世界王者の経験があり、相手は11年前に同じスタジアムで5-0と文字通り蹂躙した日本である。ホームの大観衆の前で赤っ恥をかかされたこともあり、偶発的な要素に敗因を求めたくもなるのも無理はない。
今回のフランスの敗戦は、強化試合と公式戦の違いはあるものの、ワールドカップ最終予選進出を決めていた日本が、今年2月にホームで行われた3次予選でウズベキスタンに敗れたことに似ている。当時の日本も、実力を認めながらもウズベキスタンを同格の相手や脅威と見なすようなことは皆無だった。
11年前と同じ場所で確かな成長を見せた日本
一方、今回敵地でフランスを一泡吹かせた格好となった日本代表のアルベルト・ザッケローニ監督の見解は少々異なる。
「非常にバランスのとれたゲームになった。最終的にうちがゴールを決めたが、チャンスの数は同じくらいだったと思う」
実際は、「シャイなところがありすぎた」という前半はもちろん、試合を通じて劣勢に立たされる時間が多く、GK川島永嗣の好セーブがなければ大量失点の可能性もあった。敵地での戦いという点を差し引いても、フランスとの実力差は認めざるを得ないだろう。
それでも「フランスの後ろのほうでスペースができていたので、そこにスピードに特徴のある選手を前に配置した」という後半途中からは、長友佑都が幾度となく左サイドの敵陣深くに侵入することで活路を見出した。試合終了間際に香川真司が挙げた決勝点のカウンター同様、日本の特長であるスピードを押し出すことで盛り返しを見せた事実は、偶然が絡むことで白星を手にするのではなく、強豪国とのアウェー戦でも勝利をつかめるだけの地力が付いてきていることの証明となったはずだ。
歴史的勝利の立役者となった香川は試合後、「技術的に見た時、前半はシュートまでいけなかったというのは課題だけど、もっとボールをつなぐ技術は持っているチームだと思うから、それを前半から出せるか」と語った。自陣ゴール前から一気にドリブルで駆け上がり、決勝点のカウンターを生み出した今野泰幸も「自分たちが主導権を握ってゲームをコントロールしたかった」と振り返っている。
フランスから見れば、格下相手によもやの敗戦。世界的にも、日本の大金星という見方が大半を占めるだろう。本田圭佑や前田遼一といった主力が欠場する中で、ワールドカップ優勝経験国をアウェーで下したことは、番狂わせに違いないと言える。
しかし、前半にあれだけ押し込まれながらも後半には修正し、終了間際のチャンスを確実にものにした試合内容と、終了後に喜びの弁ではなく、すぐさま反省点を口にしている選手たちを見て、頼もしさを覚えた。11年前は最初から最後までサンドバッグ状態となった日本だが、今回はしっかりとパンチを打ち返し、相手を倒してみせた。
日本は既に強豪相手の強化試合の結果のみに一喜一憂する段階を過ぎ去っているのかもしれない。それほど、「歴史的勝利」というフレーズを陳腐に思わせてしまうほどの一戦だった。
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