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“世界最高峰の演出家”ピルロが語る司令塔の極意

2013.02.08

ワールドサッカーキング 0221号 掲載]

ph_pirlo

インタビュー・文=グイド・ヴァチャーゴ

翻訳・構成=高山 港

 

 ワールドサッカーキング(2月7日発売号)のインタビューで、昨シーズンのスクデット奪還の原動力となったアンドレア・ピルロがレジスタの極意を語った。2011-12シーズンを制覇した盟主の“中心”には、華麗なるレジスタの姿があった。卓越した戦術眼と正確無比なパスで優雅に攻撃を彩る。アンドレア・ピルロの“演出”に着目せよ。

 

 たった一本のパスで決定的なシーンを演出し、勝負を決める。ゴールを奪う者がピッチという舞台の“主役”だとすれば、レジスタ(演出家)という言葉は、この男によく似合う。

 

「一人ひとりの選手がピッチ上のどこに、どうポジショニングしているかを正確につかむこと」

 

 

 いとも簡単なことのように、その口から発せられた『レジスタとして最も大切なこと』の難易度の高さは、改めて説明するまでもないだろう。

 

 

 名門ミランを中盤の底から支え続け、盟主ユヴェントスの復権を華麗に演出するアンドレア・ピルロ。レジスタの誇りを胸に、現代最高の“演出家”は、新たな挑戦を心から楽しんでいる。

 

レジスタは神経を研ぎ澄ます必要がある

 

まずは戦術的な質問から入ろう。味方DFが相手の攻撃を食い止め、反撃のチャンスで君にボールが渡ったとする。君は最初に何をする?

 

ピルロ(以下P)―質問の答えからはそれてしまうかもしれないけど、僕が「まず最初」にするのは、ボールが足元に到達する前に、相手選手とチームメートのポジションを確認することだ。ボールを持った時に時間をロスすることなく次の行動に移れるようにね。ボールをもらった瞬間に少なくとも2つは選択肢を持っていたい。基本は、とにかくできるだけ早くボールを“さばく”ことだ。

 

いち早くパスを出すことにプライオリティーを置いているんだね。

 

P―ボールをもらったら、ただちに相手陣内、ハーフウェーラインとペナルティーエリアの間にパスをフィードする。攻守の切り替えを速くすること、攻撃のスタートをスムーズに切ることが僕に求められる役割であり、重要なポイントなのさ。現代サッカーでは、ほぼすべての監督が攻守の切り替えの速さを要求する。相手のディフェンスラインが整う前に攻撃を仕掛けることが、効果的にゴールを奪う戦略の最も重要なファクターになっているんだ。

力量的に格下のチームが相手でも、その相手がきちんと守備のシステムを確立していれば、ゴールを奪うことは難しい。それが今のサッカーの流れだ。それに、トリノでユーヴェと対戦するチームは、たいていが守りを固めてくる。そうした相手に、「時間を掛けて崩すスタイル」で挑んでも、なかなかゴールには結びつかない。だから攻守の切り替えを速くして、相手の守備が整わないうちに攻め入ることが重要になるのさ。

 

レジスタとしてプレーする上で、最も大切なことは何かな?

 

P―相手チームの選手とチームメートのポジションを把握しておくことかな。攻撃をビルドアップする時、最も大切なのは、一人ひとりの選手がピッチ上のどこにどうポジショニングしているかを正確につかむことだと思う。相手のミスに乗じてフリーになっている選手や、マークを外して抜け出るタイミングを見計らっている選手、そういった選手が最終ラインの裏を突く動きをしようとした瞬間に、ディフェンスラインの背後へとピンポイントのパスを供給できれば、ゴールに結びつく可能性は高い。相手チームを含めた全体のポジショニングと、チームメートの微妙な動きを感じ取らなくてはならない。

一言で言えば、視野の広さが必要で、言葉を加えるなら、相手選手とチームメートの動きを予知する能力が求められる。当然、ポイントは前者。チームメートの動きは毎日の練習で知ることができるけど、相手チームの選手は、時として予測がつかないような動きをしてくるからね。レジスタは、あらゆる選手のあらゆる動きに対応できるよう、神経を研ぎ澄ます必要がある。

 

君がトップ下ではなく、レジスタで大成したのはなぜだと思う?

 

P―レジスタが“本来の僕のポジション”だったということが一つ。もう一つの理由は、素晴らしい監督に出会えたからだろうね。彼らは、僕がレジスタで機能すると考えただけでなく、勇気を持ってレジスタのポジションに僕を据え、使い続けてくれた。監督の立場からすれば、フィジカルとパワーに欠ける僕を中盤の底に据えるのは相当の勇気が必要だったはず。もちろん、一朝一夕でレジスタとしての居場所をつかんだわけではないし、日々の練習を通じて成長し続けたことも理由の一つだと思う。

 

 

ユーヴェのすごさは団結力にある

 

ちなみに、子供の頃はどんな選手のプレーを参考にしていたの? また、今現在、君が注目しているレジスタを教えてもらえるかな。

 

P―子供の頃、キオスクで『偉大なる10番』というビデオが売られていてね。僕が繰り返し見たのはジーコと(ディエゴ)マラドーナだった。(ミシェル)プラティニのFKの映像も何度も見たよ。ただ、よりリアルに「参考にした」と言えるのは、やっぱり、ロビー(ロベルト・バッジョの愛称)だね。僕はブレッシャでロビーと一緒にプレーした。彼の人間性とテクニックの高さには本当に感銘を受けたし、ロビーからは実にたくさんのことを学んだ。パサーとしての仕事のコツも盗んだつもりさ(笑)。

それともう一つ、注目しているレジスタという質問だけど、今のサッカー界には「レジスタ」と表現できる選手が少なくなっているように思う。そんな中、シャビ・アロンソは数少ない正統なレジスタの一人と言えるだろうね。イタリア人では、マルコ・ヴェラッティが優秀なレジスタになるための資質を備えていると思う。彼とはイタリア代表で一緒にプレーしたけど、とても高いポテンシャルを感じたよ。

 

多くの場合、相手チームはレジスタの君に厳しいマークをつけてくる。そういった状況下で、フリーのスペースを確保するコツは?

 

P―簡単だよ。相手のマークを外すことさ(笑)。まあ、冗談はさておき、最近「ピルロは厳しいマークに遭っている」という記事をよく目にするけど、僕へのマークが、まるで「今始まった」かのように書かれていることには納得がいかないね。僕がボールを持った瞬間に相手FWがプレスを掛けてくるのは今に始まったことじゃないし、僕が自由にプレーするのを妨げることが、彼らの仕事の一つにもなっている。まずは、相手のプレスをかいくぐることが必要で、そして、さっきも話したように、パスを受けたら、できるだけスピーディーにボールを手放すことを心掛けている。

 

ミラン時代と今で、君のプレーに違いはあるのかな?

 

P―ミランとユーヴェでは、そもそもプレースタイルに違いがある。同じミランにしたって、監督が代わればプレースタイルも変わるからね。スタイルというより、ユーヴェのすごさは団結力にある。メンバー全員がチームメートのためにプレーするという意識を強く持っているんだ。このチームにはエゴイストが一人もいない。これほどチームプレーに徹するグループを僕自身、経験したことがなかったし、ミランにもこれほどの団結意識はなかった。

 

なるほど。では、質問を変えよう。もし中盤に、ジェンナーロ・イヴァン・ガットゥーゾやアルトゥーロ・ビダルのようなハードワーカーがいない場合、君のプレーはどう変化するのかな?

 

P―リーノ(ガットゥーゾの愛称)とビダルを単純に比較対象にするのも、適当ではないと思うな。ビダルはリーノに比べて、より攻撃的な資質を持った選手だ。2人に共通しているのは、相手のボールを奪う技術に長けていること。彼らが奪ったボールを僕が攻撃に展開するという形が一つのパターンになっている。

質問の答えに戻ると、彼らのような選手がいなければ、当然、相手からボールを奪うケースが減るし、その分、僕がパスをフィードする機会も減ってしまう。今のユーヴェで言えば、ビダルがいない時は、僕が相手のボールを奪いにいくという状況も増えることになる。つまり、ビダルがいないと、僕のディフェンス面での負担が増えるということさ。

 

 

ユーヴェでの《冒険》はエキサイティング

 

セリエAでは今、3バックが主流になっている。理由はなぜだろう?

 

P―もしどこかのチームが“あるシステム”で成功を収めれば、他のチームもそのシステムを採用したくなるものだからかな。例えば、ナポリの躍進を目にしたチームとかね(笑)。ただ、そうしたトレンドが永遠でないことも事実だ。ベストに思えるシステムでプレーすれば、それで必ず結果が出るということになれば、理論的に最も適切なシステムが既に見いだされ、すべてのチームが「ベストと思われるシステム」でプレーしているはずだからね。でも、サッカーはそんな単純なものではないし、システムだけで勝てるほど甘いスポーツでもない。

 

ユヴェントスの3バックは、1990年代に流行した3バックとは異なるコンセプトの下に成り立っているように見えるけど、君の意見はどう?

 

P―3バックの基本的な考え方は、ディフェンス時にサイドMFのどちらか一人が最終ラインに加わり、4バックを形成することだと思う。でも、90年代に流行した3バックは、ディフェンスを3枚にすることで攻撃的な駒を一つ増やすという考え方がその根底にあったように思うし、その点では、今の3バックとは全く異なるものだと言えるんじゃないかな。僕らが今、採用している3-5-2は、昨シーズンの4-3-3がナチュラルな形で進化したもの。今のユーヴェにマッチした最高のシステムだと思っているよ。

 

少し話題を変えよう。サッカーの世界では、出場試合数とゴール数、アシスト数を除くと、個人的な数字はあまり注目されない傾向があるけど、このことについて君はどう思う?

 

P―それは事実だと思う。ファウル数とかゴールマウスに飛んだシュートの数とか、そういった数字は、あまり話題にならないからね。ただ、それはサッカーというスポーツが単純に数字では計り知れないものだからでもあると思う。そこが、例えばアメリカで人気の高いスポーツ、アメリカンフットボールなどとは違う部分じゃないかな。

 

アメリカと言えば、アレッサンドロ・ネスタはMLSに、アレッサンドロ・デル・ピエロはプレーの場をオーストラリアに求めた。君もそれなりの年齢に達したら他の国でプレーすることを選択するのかな?

 

P―正直に言えば、興味はある。ただ、問題は家族だ。家族に住み慣れた環境からの“移動”を強いるのはつらいことだからね。実際、数年前に国外でのプレーを考えたこともあった。チェルシーへの移籍がほぼ決まりかけていたんだ。でも、土壇場で(アドリアーノ)ガッリアーニが「ノー」と言ったのさ。ロンドンではカルレット(カルロ・アンチェロッティの愛称)の下でプレーすることになっていたから、少し残念でもあった。彼は、僕の最高のプレーを引き出してくれた監督だからね。

 

アンチェロッティへの感謝はそれほど大きい?

 

P―当然だよ。僕は彼の下で自分のプレースタイルを確立することができた。僕のミランでの成功は、そのすべてがカルレットのおかげだと思っている。あの頃一緒にプレーした選手の多くがカルレットに感謝しているはずだ。

 

 

では、アントニオ・コンテはどんな監督なのだろう?

 

P―素晴らしい監督だよ。彼が志向するサッカースタイルも気に入っているし、選手と接する監督としての姿勢もリスペクトしている。コンテとは、初めて会った時からフィーリングもばっちりだった。コンテは自分のアイデアを選手に押しつけるタイプではなく、選手からアイデアを吸収することもある。つまり、選手と同じ目線で物事を見ることができるのさ。偉大な監督だよ。

 

いぶ心酔しているようだね。そんな君にとって最高の監督は?

 

P―その手の順位づけは好きじゃないんだ。もちろん、コンテがエキサイティングな監督であることは間違いない。もっと言えば、ユーヴェでの“冒険”自体が僕にとってはエキサイティングなものなんだ。

 

昨シーズン、ユーヴェはトリエステでのカリアリ戦でスクデットを決めた。スクデット獲得に慣れていたはずの君が号泣していたね。

 

P―あの瞬間は、まるで初めてのスクデット獲得のように感激したよ。ユーヴェにとっても久しぶりのスクデットだったし、全メンバーが大きな感動を覚えた。涙については、みんなが泣いていたから、それが伝染したということにしておいてもらえるかな(笑)。

 

ユーヴェでのスクデット獲得で、「ピルロはミランへのリベンジを果たした」と言う人もいる。

 

P―ミランには感謝の気持ちしかない。恨みを抱くなんてことはあり得ないし、もちろんリベンジなんて意識が存在するわけもない。ミランを出てユーヴェに加入したのは僕の選択だ。ミランへの感謝を胸に、僕は今、ビアンコネーロの一員として新たな挑戦を楽しんでいるのさ。

 

 

 

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