名波氏は、磐田などで輝かしい活躍をした [写真]=新井賢一
[Jリーグサッカーキング4月号 掲載]
1990年代後半から2000年代初頭にかけて黄金時代を築いたジュビロ磐田。この常勝軍団の司令塔に君臨し、左足からの正確なパスで強力なアタッカー陣を操り、ピッチ全体を見渡していた彼の鋭い眼は、Jリーグ全体の現在、そして未来をどう見ているのか。
インタビュー・文=青山知雄(Jリーグサッカーキング編集長) 写真=新井賢一
海外への意識も、この20年間で大きな変化があったように思います。
名波 リアルタイムで海外リーグの試合を見られるようになったので、かなり世界を近くに感じるようになりましたよね。海外移籍を目指す選手が増えましたが、仮に海外へ行ったとしても、そこで簡単に試合に出られるわけではない。僕自身もイタリアで苦労したし、ヒデ(中田英寿)もずっと出続けたわけじゃないし、カズさん(三浦知良)も(中村)俊輔もそう。香川(真司)や長友(佑都)のようにビッグクラブで主力を張っているイメージが強いけど、それは報道される量が多いだけ。海外移籍した選手がベンチを温める期間が長いという現実を見ると、もう少しJリーグで実績を作ってから行ったほうがいいのではないかと思います。香川にしても長友にしても、しっかり結果を出していますから。
名波さん自身もJリーグで優勝してからイタリアへ挑戦しました。
名波 当時は「日本でやり残したことはもうない」という状況で行きましたし、実際にファーストステージ優勝が海外移籍の条件でした。そういった状況で海外に移籍すれば、もしダメでも自分に足りないものが見える。でも、中途半端な状態で行ったら、どこが悪いのかが分からないまま、ベンチでくすぶることになる。海外でレベルアップしたいという気持ちはよく分かるんですけど、まだまだJリーグで成長できる部分は大きいですよ。
香川や長友のように海外で成功を収める選手が出始めたことは、日本人選手が世界で通用することを証明しているとも思います。
名波 それは大きいですね。UEFAチャンピオンズリーグに出場したり、国内リーグでの優勝経験を持つ日本人選手が出てきましたし、これだけ早くそういった時代が来るとは思わなかった。日本サッカーは急速にレベルアップしています。
最近では10代で海外移籍する選手もいます。
名波 これに関しては、ちゃんと育ててもらえるクラブを選んでほしいですね。デンマークやベルギー、オランダあたりには、すぐに使ってもらえる環境がある。宮市(亮)がアーセナルと契約した直後にフェイエノールトへ期限付き移籍したのがいい例です。Jリーグを経験していないだけに、アーセナルで試合に出られない時期が続くと、もったいない時間が長くなってしまう。身を置いている環境自体は素晴らしいので、外国の人々と常に接して、海外の文化に触れることは人間形成の上で非常に大切だと思います。
選手の海外移籍と並行して、日本代表のレベルもかなり上がっています。
名波 今は“史上最強”ですよ。僕らの世代はワールドカップに出ることが目標で、決勝トーナメント進出は夢だったけれど、今は出ることが当たり前で、決勝トーナメントが最低ライン。頂点を探る話をしているわけだから。“海外組の多さ=史上最強”というわけではないですが、今は海外組と国内組でいい競争ができているし、レベルが非常に高くて向上心の強い選手が集まっています。