ワールドカップに3大会連続出場し、海外でのプレーは8年が経過。35歳となった川島永嗣は、間違いなく日本で最高のキャリアを過ごしているGKの一人だ。だが、ワールドカップ前や大会中に見せたパフォーマンスに対し、厳しい声が多方面から挙がった。好セーブを見せたシーンもあったが、1つのミスが命取りとなるGKの難しさを表す、象徴的な大会となったと言ってもいい。
川島はGKというポジションをどう捉え、毎試合何を思ってプレーをしているのか。また、日本全体におけるGKのレベルをさらに高めていくためには何が必要か。本人に今夏、話を聞く機会を得たので、直接投げかけてみた。
インタビュー=小松春生
写真=瀬藤尚美、Getty Images
――まずW杯を振り返って、どんな大会になりましたか?
川島永嗣(以下、川島) 個人としては3回目の出場でしたが、W杯の大きさをすごく感じた大会でした。大会が始まる前は、そういう感覚はありませんでしたが、始まってからは『世界中がサッカーというスポーツを通して、一つになる瞬間があるんだ』と強く実感しました。こういう舞台でプレーすることができ、選手として貴重な体験をさせてもらった時間でもありました。
――3大会とも得るものは違いましたか?
川島 得るものもそうですし、感じるものもその時で違いましたね。
――大会への臨み方も毎回変わりましたか?
川島 そうですね。今回の大会に臨むにあたり、やはり2014年の思いは大きくあったと思います。そういう思いを断ち切るためにも多くの努力と犠牲を払ってきた部分があると思うので。位置付けとしては2010年から14年に向かっていくのとは違った部分がありました。
――14年で表現できなかったものを今大会で、というところで自分の中でやれたところ、足りなかったところはいかがでしょう。
川島 足りなかったところは言えばキリがないですし、ここまでのキャリアを振り返っても、その連続だと思います。選手としてもそうですし、W杯という大会に向けても、常にそこは永遠のテーマです。得られたものも、4年間やってきたことが全て形になったのかと言うと、満足いく部分といかなかった部分があります。4年間やってきたことが完璧に出せないところもW杯なのかな、というのは感じます。
――川島選手から客観的に見て、日本代表のチームとして今大会で得られたもの、まだ足りないものはなんでしょうか。
川島 得られたものは、2010年の時にグループステージを突破した時の感情とは違う感情を持っていたということです。それは「W杯はここから」と、みんなが思えていたということ。ベスト8、さらに上に行くため、本当に勝ち上がらないといけないのはここからだ、と。そういう気持ちでいられたのは、今までの代表にはなかったと思います。結果は置いておき、チームとして感じられたのは未来につながる部分なのかなと。
今後さらに上に行くために何が必要かで言えば、W杯でベスト8、ベスト4に入っていくことの偉大さを、より感じて挑戦していかないといけないと思います。W杯という舞台で、そこにたどり着くことはどれだけ大変なことなのかを、いろいろな局面でもう一度考えないといけないと思います。
――日本は本大会に出場して当然という雰囲気がある中、見ている側の意識としてもW杯という舞台の重要度を認識する必要がありますね。
川島 勘違いしてはいけなのが、4年に1度の大会なので、一つひとつ結果を変えていけるほど簡単な舞台ではないということです。今大会でもそれぞれの国にいろいろなドラマがあって。例えばドイツやスペインもそうです。常に4年周期の舞台で、いろいろなことが起きるということをまず認識しなければいけません。その中で長期的に見て、自分たちは何ができるのかを考えていかなければいけない。「今回できたから、じゃあ次はこれをやれば」という保証は、W杯という舞台においては、無いと思います。
――個人のプレーで言えば、本大会前から川島選手のプレーについて、厳しい声が挙がりました。多少なり耳にすることもあったと思いますが、それをどのように消化されていたのでしょうか。
川島 良くない時に批判されることは当たり前だと思いますし、GKというポジション柄、常に点を取られるポジションなので、それを受け入れていかないといけません。その覚悟がなければ、あのピッチの上には立てないと思います。そのことに関しては全く問題ないと思います。ただ、自分がなかなかチームに貢献できていないと思っている中で、チームのために自分自身は貢献しなければいけないと思ったし、信頼を示してくれた人たちのためにもやらなければいけないと感じていました。
――選手やスタッフ、サポーターの方などですね。
川島 そうですね。ポーランド戦の前、「なんでこういうことが起こるんだろうな」、「これだけ苦しんできたのに、こんなことがまた起こるのかな」という考えばかりが頭の中にあって、自問自答を繰り返していた時、ふと、2年前を思い出したんです。3番手GKとしてFCメスと契約した時で、試合に全く出てなかったんですが、一人の日本代表サポーターの方が、わざわざ応援に来てくれたんです。
フランスまで来てくれて「僕は川島さんのことを信じています。だから応援しています」と伝えるためにです。僕は「次、応援に来てくれた時は絶対に試合に出ていますから」と答えたんですけど、そうしたら次に来てくれた時は試合に出ている時で。そこで今度は「W杯で絶対に優勝しましょう」と答えて。
それをフッと思い出して、「なんで自分は、自分のことをこんなに考えているのかな」って思ったんです。それだけ信じて応援してくれる人、サポートしてくれる人がいるのに。信じてくれる人のために、自分はここでやらなかったら男じゃないなって思って。
――大会中、川島選手へのメディアや世間の言動に対して、吉田選手がメッセージを発信するといったこともありました。長友選手が金髪にした件もそうですが、選手自らが積極的に情報を発信した大会であったとも思います。チームとして一体感を高めていくため、各々がアクションを起こしたのでしょうか?
川島 そうですね。でも、ピッチ外もそうですけど、一体感というものを一番感じたのはピッチ内です。ピッチの中で、とにかくチーム内で助け合うことが一番大きかったですね。それが行動に出ていたと思いますし、チームを一つにする大きな要因だったのかなと。
コロンビア戦に向かっていくまでの作業でも、ピッチ上、ミーティングなど、みんなでたくさん議論をして、このチームがどうやったら力を発揮できるのか意見を出し、その作業を繰り返しました。それぞれ意見は違うし、意見のぶつかり合いもありましたけど、普段しゃべらないような選手含め、今までになかったくらい、意見を出し合っていきましたから。
――ここからはGKというポジション全体のことをうかがいます。ロシアW杯ではGKのシュートストップが多く、攻撃の組み立てに積極的に参加できるタイプより、守備をしっかりとオーガナイズできるタイプが目立ったと思います。今後GKのタイプとしてトレンドに変化はあるでしょうか?
川島 トレンドはあるでしょうし、どういう方向性のGKが現代のサッカーに合っているのか、というのはあると思います。一つ理解しないといけないことは、GKのそれぞれにスタイルがあり、やれることが違う、そして特長も違うことです。例えば、ケイラー・ナバスはマヌエル・ノイアーにはなれませんが、ナバスは素晴らしいGKなのは間違いない。何が本質かと言えば、ゴールを守るために何ができるか、それがどうチームに貢献できるか、です。そこは見逃してはいけません。本質的にできる部分がなければ、チームに貢献できないと思います。今大会で目立ったGKのスタイルがトレンドになるかは、また違う話ですね。
――日本のGK事情はどう見られていますか? 例えばGKのスタイルは他国と比べてバリエーションが少ないように感じます。
川島 日本では、ミスが大きく取り沙汰されてしまう文化が、GK含めてあると思います。例えば、ヨーロッパのトップレベルと見ると、常にミスをしないように考えつつ、どれだけ最高のプレーをするためにリスクを取っているか。フランスでプレーしている中でも、リスクを背負ってでも、前に出ていかなければ何も評価をされません。リスクを含めた選択肢の中で何ができるかを、非常に見られます。シュートを止めるため、リスクと隣り合わせの中で何ができるかが、GKとして最高のプレーを作っていく最大のポイントだと思います。日本の文化の中でそういうことにトライすることは難しいかもしれませんが、トライしていかなかったら、今より大きな日本人のGK像は出てこないと思います。
――日本では幼少期、「GKは余った子がやる」という認識も広まっているように思います。やはり、GKをやってみる子どもが増えてほしい気持ちはありますか?
川島 GKだけではなく、何かをやる上で一番大事なのは情熱だと思います。やってみたい、シュートを止めたいという気持ちが、いいGKを作っていくと思います。そういう意味では、自分も含め、もっとそういう思いを持ってもらえるようなプレーを子どもたちに見せていきたいと思いますし、それが新たな日本人GK、子どもたちの形につながっていくと思います。
――今GKをやっている、もしくは、やってみようと思っている子どもたちにメッセージがあれば、いただきたいです。
川島 GKって、割に合わない時はたくさんあるし、いろいろなものを背負ってやらないといけないところもあると思います。でも、1つのセーブで試合を変えられるし、1つのセーブで、結果だけでなく、いろいろなものを変えられる。そういう魅力はGKにしかないと思います。基本的にGKは1人。でもその分、得るものは大きいし、僕もシュートを止めた時の感覚が一番気持ちいいと思っています。そういう感覚を常に味わいながら、成長してほしいですね。
――フィールドプレーヤーに比べ、GKは海外でプレーする難しさがどの国の選手でもあります。川島選手は日本人GKもどんどん海外に出ていくべきと感じますか?
川島 両方あります。出なければ海外での基準は絶対にわからないと思うし、自分も海外に出たことで、よりGKとして何が求められているかを体感しました。それは外に出なければわからなかったことです。ただ、海外でやることの難しさもわかるので、今後は日本がGK大国になるような文化を作っていかなければいけないし、そうなっていってほしいと思います。日本でプレーしていても素晴らしいGKがどんどん出てくる、となってくれればいいなと思っています。
僕の経験から言えば、ヨーロッパでは若くて才能あるGKがどんどん出てきます。FCメスで一緒にやっていたGKも21歳と若く、身長は192cmくらいあって、体が出来上がっている。フィジカル的に日本人より強い部分があるので、やれることの幅が最初から広いんです。その若いGKと持っているプレーの幅が同じであれば、日本人をわざわざ連れてくる意味がない。とにかくまずは、基準をそのレベルに上げないといけませんが、同じレベルで勝負してはいけないと常に思っています。さらに高いレベルを目指すことが、自分の中で大きなポイントでした。
あと、GKというポジションは信頼がとても大事なので、言葉を話すにしてもチームメートにどう話しかけるのか。ただ自分が言いたいことを言うだけではなく、ロッカールームで冗談を言っている時でも、自分がどう入っていくかも考えないといけません。自分から話すだけではなく、意見を聞いたりもするようにしています。
一方で、自分の意見ははっきり言わないと、ミスや失敗などを擦り付けられて終わってしまうこともあります。みんな自分が批判されるのが怖いから、自分のせいにしてほしくないという気持ちがあって、人のせいにするんです。特にGKは失点するとターゲットにされがちですよね。そこで自分が黙ってしまうと、周囲からも「これはGKのせいだったんだ」で終わってしまう。自分の意見はしっかり言わないと、そういう環境の中ではやっていけません。日本人は何でも、相手の意見をいったん受け入れがちです。僕も日本で生まれ育っていますから、海外でプレーし始めた当初は「自分のせい」にされるのが、かなりキツかったんです。日本人のアイデンティティが通用しない中で、その感覚を持ち続けていたらやっていけない、と身をもって感じて。でも、そこからさらに長く海外でやらせてもらっている中で、わかってきたことがあって。それは、言う時は言わないといけない、でも相手を尊重する時はしっかり尊重しないといけない、ということです。自分が生まれ育った場所から得たアイデンティティは絶対にあるので、捨ててはいけないものがあると、後々から感じるようになりましたね。
――日本国内に残って成長もできることはあります。選手として成長するために大事なことは何だと考えますか?
川島 最高のものを作るために、リスクを冒してほしいです。日本では「弾いてOK」だったボールも、海外では「なぜキャッチしない」と言われることも多くありました。その基準は常に高く持たないといけません。例えば、6割の力で蹴ってもらったボールを10本ミス無しでキャッチはできるかもしれないけれど、8割の力で蹴ってもらったボールで2本ミスが出たとしても8本キャッチするための努力をする必要がある。ミスをしないためではなく、シュートを止めるためにどれだけその幅を広げていけるのか、という作業は大切だと思います。
――それを若い年代から意識しながらできれば、というところでしょうか?
川島 そうですね。僕はまだ指導者ではないですし、プレーでしかそういう部分を見せることができません。でも、そういうプレーは見ていればわかると思いますし、その違いはフラットな視点で見ていれば、わかると思います。子どもたちが純粋に見て、感動するようなプレーを常に目指したいですね。
――最後に、今後のキャリアプランについて。35歳となり、GKとしてはまだまだできる年齢ですが、この先10年、20年といったところでの展望はありますか?
川島 考えていないと言えば、考えていないですね(笑)。でも、周りからの見られ方は現役後、という見方にもなると思います。そのギャップがあると思いますが、根本的な“人を感動させられるプレーヤーでいたい”ということは変わりません。海外に出てから、いろいろな思いを持ちながらプレーしてきましたけど、自分がしっかり気持ち的にも充実した中で、今後のキャリアを過ごしていきたいと思います。その中で自分にできることを続けていければいいのかなと思っています。